バンコク、タイ ― 2025年8月第2週
「藤本所長、タイでリュウグウ実物試料初展示と講演会を実施 ― NARIT(タイ国立天文学研究所)等との連携、日本・タイ宇宙科学・探査協力模索、新たな一歩 ― 」
◆8月8日(金)晴れ バンコクの夜明け
8月8日朝のバンコクの空は、熱帯特有の湿り気を帯びた空気の中で鮮やかな青に輝いていた。ヤシの葉がにぎやかな街路の上で揺れ、日光はアスファルトの上で煌めいていた。「タイ高等教育・科学・研究・イノベーション省フェア(MHESI Fair 2025)」の会場であるクイーンシリキット国家会議センター(QSNCC)に向かう途中、街全体が期待感で満ちているようだった。
遠くの方では公園で鳴く小鳥の声と、多くの車などで活気溢れる街のざわめきが溶け合うその朝、JAXA宇宙科学研究所(ISAS)は、日本とタイの宇宙国際協力の新たな一歩を刻む日を迎えていた。その中心にあったのは、はやぶさ2ミッションが小惑星リュウグウから持ち帰った、かけがえのない実物試料。日本以外のアジアで初めての一般公開に向けて、会場では開会の時を待つ来場者の熱気が高まっていた。
2025年8月7日から11日にかけて、JAXA宇宙科学研究所(ISAS)の藤本正樹所長(JAXA理事)がタイ・バンコクを訪問しました。今回の訪問では、タイ国立天文学研究所(NARIT)との連携により、日本以外のアジアで初めて小惑星リュウグウの実物試料を一般公開。さらに、日本人コミュニティ向け・タイ人向けの講演会や要人面会を通じて、日本とタイの間の宇宙科学協力を大きく前進させました。

バンコクの街路とQSNCC、近隣の公園や街並み

会場入口での藤本所長とNARIT国際担当官スパラック・チャンタワン氏

下の階ではNSTフェアが開催され、JAXAを含む日本ブースがあり、多くの学生が来場していた

NARITが作成したリュウグウ実物試料展示のタイ語広報資料、NARITフェイスブック掲載写真
詳細は NARIT の Facebook 投稿をご覧ください → this NARIT Facebook post
大鷹正人 在タイ王国特命全権大使への表敬訪問
8月8日の午前、藤本所長は、大鷹正人 在タイ王国特命全権大使を大使公邸に表敬訪問し、今回の訪問目的やタイの宇宙体制、日タイ宇宙科学・探査協力の連携模索に向けた可能性について意見交換しました。タイが二度目の赴任である大鷹大使から示唆に富むご意見をいただき、会談は終始なごやかな雰囲気で行われました。

藤本所長と大鷹正人大使等と共に
日本人コミュニティへの呼びかけ (日本人コミュニティ向け講演会(在タイ日本大使館多目的ホール))
同日午後には、大使館多目的ホールにバンコク在住の日本人コミュニティが集まり、藤本所長の講演「宇宙科学が切り拓く未来 ― 日本の挑戦」が行われた。はやぶさ2、SLIM、火星衛星探査計画(MMX)などについて語られ、夏休み中の子どもを含む約120名が熱心に耳を傾けた。質疑応答では子どもたちが積極的に質問し、所長は自身の海外生活の経験を交えて、「ここでの経験が必ず将来に役立ちます」と励ました。MMXのミッションステップをノートに書き留めるよう促されると、子どもたちの目は輝き、講演後にはサイン入りノートを誇らしげに持ち帰る姿が見られた。


講演会場の様子、イベントポスター


講演後の集合写真
タイの次世代への科学共有 (タイ人研究者・学生・メディア向け講演会(NSTDA))
午後はタイの重要なパートナーであるタイ国家科学技術開発庁(NSTDA)に移動。JAXAがアジア・太平洋地域宇宙機関会議(Asia-Pacific Regional Space Agency Forum (APRSAF))の枠組みの下、地域の宇宙機関と共同で推進している『Kibo-ABCプログラム』(「きぼう利用水先案内人プログラム(Asian Beneficial Collaboration through Kibo : Kibo-ABC)」のパートナーでもあるNSTDAには約50名の研究者、学生、メディア関係者が集まった。チュララット・タンプラセート副長官の開会挨拶の後、聴衆はノートを開き、藤本所長の言葉を一字一句聞き逃すまいと前のめりになっていた。講演では月探査の未来から国際協力の意義まで幅広い質問が飛び交い、タイPBSのインタビューでは落ち着いた語り口で日本の宇宙科学のビジョンを伝えた。

チュララット副長官と藤本所長

NSTDAで講演する藤本所長

イベントポスターとKibo-ABCプログラムの展示

学生・若手研究者との交流、記者インタビュー

地元テレビ局(PBS)の記者からのインタビューに答える藤本所長

正面入口の近くには、8月12日がシリキット王太后の誕生日でタイの祝日であることから、写真と花、国旗が飾られていました(青色はシリキット王妃の象徴色。誕生日の曜日で決まっているとのこと)。
◆8月9日(土)晴れ 歴史的な開幕
MHESIフェア2025の開会式と「リュウグウ実物試料」展示開始
翌朝、MHESIフェア2025がQSNCCで開幕。スダワン・ワンスパキジコソーン高等教育・科学・研究・イノベーション大臣ら、多くの閣僚や外交団が来場し、開会の辞が述べられた。藤本所長も各国代表とともに登壇し、温かい拍手で迎えられた。
NARITブースでは、リュウグウ実物試料の展示が圧巻だった。前年からJAXAと連携して準備された特設展示は、はやぶさ2探査機やリュウグウ模型、表面画像を床面に配置するなど工夫され、まるで小惑星の上を歩いているかのような演出。子どもを肩車する親や、光る微粒子を見つめる学生の姿が印象的だった。



オープニングセレモニーでは関係機関の幹部へも挨拶
GISTDAスリラック副長官(左写真) NSTDAスーキット長官(右写真)
今回のフェアは、科学・技術・イノベーションの発展と普及を目的とし、国内外の幅広い分野から出展が集まるタイ最大規模の科学イベントです。今年は、JAXAとNARITの連携による小惑星リュウグウの実物試料展示が目玉の一つとして注目を集め、NARITのブースに大々的に実物試料の展示場所が設けられ、壁面にはタイ語による解説や、NARITが独自に製作したはやぶさ2や小惑星リュウグウの模型も展示されました。開会式後の会場視察では、親子連れから、学生たち、大人まで、様々な年齢層の人が興味津々に鑑賞していました。


NARITブース、タイ語説明や模型

見入る来場者、学生や家族連れ

NARITのマスコットが挨拶
スダワン高等教育・科学・研究・イノベーション大臣や、同省のスパチャイ・パトゥムナクン事務次官などVIPも多数ブースを訪れ、スダワン大臣は藤本所長の説明を熱心に聞き入った。大使館関係者やタイの著名なサイエンスコミュニケーターもSNSで即時に発信。また、リュウグウ実物試料は、バンコクでのイベントのあと、北部のタイ第2の都市チェンマイに運ばれ、NARIT本部でも展示される。

大臣と所長、取材陣

実物試料を前に、藤本所長から説明を受けるスダワン大臣と報道陣の様子

西岡在タイ日本大使館公使への説明

サイエンスコミュニケーターによる取材

MHESIフェイスブックの大臣のリールでも、リュウグウ実物試料と藤本所長の説明が紹介されていました。
詳細はMHESIの Facebook 投稿をご覧ください → this Facebook reel. (タイ語)
会場にはラーマ4世を顕彰するコーナーなどもあり、歴史と未来が交差する空間となっていた。

ラーマ4世コーナー、会場内の様子
未来への種まき (NARIT(タイ国立天文学研究所)との将来の宇宙科学・探査の協力の可能性)
会期中、NARIT新所長のウィプー・ルジョーパカーン博士とも会談。40m電波望遠鏡や月探査用の小型衛星計画など、急成長するNARITの活動を背景に、宇宙科学・探査分野での新たな日本・タイ間の国際協力の可能性となる芽が語られた。

パトゥムナクル事務次官、NARIT所長、藤本所長との意見交換。NARIT関係者との集合写真。

NARITの宇宙技術展示

ISASのタスカー准教授、NARITのマティポン博士と藤本所長

タスカー准教授による実物試料設置作業
詳細はNARITのFacebook投稿(タイ語)をご覧ください。
旗と友情の橋
旅の終わりに浮かぶ光景は、バンコク中心部にある「タイ・日本ブリッジ」。両国の国旗が並び立ち、約70,000人の在留邦人、長年続く日本政府のODA(政府開発援助)や日本企業の進出、日本の皇室とタイ王室との交流を象徴していた。今回の藤本所長の訪問とリュウグウ実物試料の展示は、単なるイベントを超え、信頼と友情の再確認、未来への協力の芽吹きを示すものとなった。

バンコク市内の様子、「タイ・日本ブリッジ」の両国国旗など
(2025/08/28)
