連載最終回では、地上系の開発方針と将来計画の話をします。
宇宙研の地上系は、いくつかの方針のもとで開発を行ってきました。その方針の中で最大のものは、統一的な構成原理(アーキテクチャーとも言います)に従ってシステム全体を構成するというものです。この構成原理は、システムを多くの衛星・探査機プロジェクトで共有でき、しかもプロジェクトによる違いを簡単に吸収できるようにするために考案しました。
我々が編み出したシステム構成原理を図1に示します。この図は、本連載第1回「『地上系』のあらまし」の図1「大まかな『地上系』の概要図」をシステム構成原理の観点から描き直したものです。地上系システムは、地上局を頂点としてタコ足配線のように装置を接続して構成されます。図の桃色の箱はデータ分配・蓄積装置と呼ばれる装置で、これは全プロジェクトで共通に使えるようになっています。水色の箱は、ほかのさまざまな衛星運用のための装置で、衛星管制装置、各種QL(Quick Lookの略、データ表示の意味)装置、テレメトリデータベース「SIRIUS」(本連載第4回「衛星データの行方」参照)などが含まれます。水色の装置のほとんどは、衛星情報ベースと呼ばれるデータベースを取り換えるだけでさまざまなプロジェクトに使用できるようになっています(図2)。また、水色の装置の一部(観測系QL装置など)はプロジェクト固有の装置であり、プロジェクトごとにつくられます。また、ほとんどの装置(桃色も水色も)は全プロジェクト共通の通信方式を使用して接続されます。
この構成原理に従うと、新しいプロジェクトは、そのプロジェクトの衛星情報ベースをつくり、そのプロジェクト固有で必要となる装置を新規に開発するだけでよく、それ以外の装置は既存のものを改修なしで使用できるのです。新規の装置はタコ足の末端に接続されるので、新規の装置に万一問題が発生してもシステムのほかの部分に影響が及ぶことはありません。この構成原理は、地上系の開発の効率化と信頼性の向上に大いに貢献しました。
もう一つの開発方針は、システム全体に関わる技術の開発は職員が自ら行うということです。個々の装置の開発はメーカーさんにお願いすることが多いのですが、いろいろなメーカーさんの装置を自由に組み合わせて使用できるようにするには、中核の技術は中立の立場で開発する必要があります。そのために、自分で設計のできる職員を集めて中核技術の開発を行いました。また、メーカーさんの設計結果についても設計の経験のある職員が評価を行い、設計者の目線でメーカーさんと調整を行ってきました。
最後に、地上系の将来計画についての話をします。図2に示したように、すべての衛星を共通の装置で運用できるようにするために、個々の衛星の特徴はデータベースに格納し、データベースの内容に従って個々の衛星に対応できるような汎用のシステムを構築しました。このシステムは、実際に多くの衛星で使用されているのですが、実は衛星以外のものの運用にも使えるようになっているのです。例えば、地上局の設備(アンテナや送受信機など)も同じシステムで運用できます。それには、地上局設備の特徴を記述したデータベースをつくればよいのです。現在は、地上局の運用には地上局専用の運用装置を使っているのですが、将来は一つの装置で衛星も地上局も運用できるようにしたいと思います。例えば、衛星と地上局との間の通信回線の状態(通信速度など)を運用中に変えたい場合があります。この場合、衛星の状態と地上局の状態を同時に変える必要があるのですが、このような操作は一つの装置で行う方が確実に行えます。また、衛星を打ち上げる前に衛星の試験を行いますが、試験中の衛星も試験用の治具も一つの装置で制御できるようにしたいと思います。
将来の夢はまだまだあるのですが、ページの終わりに達しましたので、筆をおくことにします。
やまだ・たかひろ
ISASニュース 2015年11月 No.416掲載