映画に登場する「管制センター」のモニタを想像してください。今回は、科学衛星や探査機(以下、衛星)を人が扱うための装置、管制装置とQuick Look装置(QL装置)についてのお話です。
衛星を地上で支える指揮者は、管制装置を用いて衛星に指令(コマンド)を送信し、QL装置に表示された文字やグラフを通じて衛星から受信したデータ(テレメトリ)から衛星の状態を確認します。衛星が日々実行する任務は地上で計画され、「コマンド」として管制装置から衛星に送信されます。コマンドは、直ちに実行されるよう一つ一つ送信されるか、あるいは指定した時刻に実行されるようまとめて送信されるかのいずれかです。また、衛星の状態は、常時衛星上でデータレコーダに記録され、地上と通信が可能な時間帯に「テレメトリ」として再生、地上に送信されます。地上では、テレメトリが届き次第、QL装置やそのほかの装置を用いて、衛星が健全か否か、データが正常に取得できているか否かがチェックされます。異常が見つかった場合、どこが異常なのか、なぜ発生したのか、原因究明のための調査が行われます。このように、衛星に指示を出し状態を確認する作業を、衛星運用と呼びます。特に、衛星が地上と通信している間の運用を、リアルタイム運用と呼びます。
衛星のリアルタイム運用は、通常、2~3人が一組となり、1台の管制装置と2台のQL装置を用いて行われます。緊急時や特に重要な運用を行う際には、より多くの人々が集まり、多くのQL装置が用いられることもあります。これらの装置は、効率よく利用できるように、一つの装置で複数の衛星に対応できるつくりとなっています。衛星ごとのパラメータがデータベース化され、ソフトウェアはこのデータベースを読み込んで動作します。このデータベースは、衛星情報ベース(Spacecraft Information Base:SIB)と呼ばれ、衛星のテレメトリ・コマンドの設計を記述するものです。近年導入した管制装置とQL装置は、パソコンなど汎用の計算機で動作するソフトウェアとして整備されています。このソフトウェアはそれぞれ、コマンド発行・状態監視ソフトウェア、テレメトリ監視ソフトウェアなどと呼ばれ、汎用衛星運用試験ソフトウェア(Generic Spacecraft Test and Operation Software:GSTOS)というソフトウェア群に含まれています。
衛星の管制装置・QL装置は、衛星が地上にあり、電気的な機能試験をしている段階から使用され、衛星の検証と並行してそれ自身も検証されていきます。管制装置・QL装置を構成するソフトウェアは複数の衛星での検証を経ており、問題が発見されることはまれです。他方、SIBは衛星ごとにつくられるため、その検証がポイントとなります。つくりたてのSIBにはある程度の割合で誤りが含まれます。近年の衛星では、コマンドの数は数千、テレメトリの数は数万に達し、全体では相当数の誤りを正さなければなりません。従来の衛星では、管制装置・QL装置が利用可能となるのは衛星が組み上がった段階だったため、SIBもこの段階で検証されていました。衛星が組み上がった段階での試験は衛星自身の検証が主目的であり、一度に10人ほどが作業を行う大掛かりなものです。予期せぬ事象が起きたときに、これは衛星自体の異常なのだろうか? SIBの記述ミスなのだろうか? と、皆で首をかしげることとなります。
我々は、この状況を改善するために二つのアプローチを取っています。一つ目は、少人数で実施されるサブシステムやコンポーネントと呼ばれる構成での試験から管制装置・QL装置を適用し、SIBの検証を衛星組み上げの前に済ませてしまう方法です。この方法は、過去最大規模の科学衛星である次期X線天文衛星ASTRO-Hに適用され、効果を挙げています。二つ目は、SIBに基づき搭載ソフトウェアの一部を生成することで、搭載装置とSIBの食い違いを根本からなくす方法です。この方法は、惑星分光観測衛星「ひさき」以降、衛星のいくつかの搭載機器に適用され、実績を挙げています。
まつざき・けいいち
ISASニュース 2015年7月 No.412掲載