「では、調整会議を始めます」「8月24日、『ひさき』、11m、3:50~、5:45~......」「8月25日は......」「すみません、8月24日ですが、GEOTAILを1時間半延長したいと思います」「運用者アサインは問題なさそうですね」「今週の日曜日は停電作業がありますが、伝送系システム担当よりもう少し余裕が欲しいとのことで、『ひので』の早朝パスをオフライン運用でお願いしたいのですが」「いいですよ。では、このパスをオフライン運用で」「承知致しました」「来週ですが、台風が鹿児島に近づいているようです」「荒天対策会議はいつ行われるか、聞いていますか」「確認して、あらためてお知らせします」「暴風域の時間帯は運用休止となるので、この日あたりは、あまり重要な運用は予定しない方がよさそうですね」......
毎週木曜日、こんなやりとりが宇宙研の片隅で行われています。今回は、地上系の中でもあまり表には出てこない、運用調整の作業について紹介します。
現在、宇宙研で運用している科学衛星・探査機(以下、衛星)は、地球の磁気圏を観測するGEOTAIL、X線を観測する「すざく」、太陽を観測する「ひので」、オーロラを観測する「れいめい」、今年12月に金星周回軌道への再投入を試みる「あかつき」、太陽の光を受けて航行する宇宙ヨットIKAROS、惑星を遠隔観測する「ひさき」、みんなの熱い想いを乗せて小惑星に向かう「はやぶさ2」、東京大学と宇宙研が共同開発した超小型深宇宙探査機PROCYONと、9機あります。
9機の衛星に対し、運用に使用できるアンテナの数は限られています。第2回「探査機・衛星追跡地上局の設備」で紹介した、臼田(長野県)の64m、内之浦(鹿児島県)の34m、20m、11mの4つです(海外にもアンテナはありますが、普段はこの4つのアンテナで運用を行っています)。
実は、衛星を運用できる時間は限られています。皆さんが夜、星空を眺めるとき、すべての星座が見えるわけではありませんよね? そう、地平線があるからです。衛星が地平線から昇ってきて地平線に隠れて見えなくなるまでを「可視時間(見えている時間)」と呼びます。衛星の運用ができるのは、可視時間の間だけです。地球のまわりを回る近地球衛星は、可視時間が10~15分しかありません。一方、「あかつき」のような深宇宙探査機は地球から遠く離れるので、それぞれ異なるものの、7~14時間あります。
運用調整では、各衛星の可視時間帯と要求をもとに、「いつ、どの衛星を、どのアンテナで、どのくらい運用するのか」を決めていきます。ただし、すんなり決まるのではなく、調整には大きく分けて二つの制約があります。
(1) アンテナの故障・メンテナンス:そのアンテナは使用できないため、ほかのアンテナに割り振る必要があります。
(2) 運用者アサインの調整:運用するのは機械ではなくオペレータなどの「人」なので、無理のない調整が必要になります。例えば、22時から深夜2時まで運用する場合、電車で通勤している人は運用が終わっても始発まで帰ることができません。また、早朝5時から運用を開始する場合は、終電で出勤して数時間待機してからやっと運用を始められることになります。そんな状態が毎日続くと、とても大変ですよね。
各衛星の可視時間と要求、アンテナのメンテナンス、運用者アサイン、この三つに挟まれ、いつも頭を抱えながら調整しています。
運用調整が一番大変だったのは、「あかつき」とIKAROSの同時打上げと「はやぶさ」の地球帰還が重なった、2010年の5~6月でした。深宇宙探査機なので毎日、大きな臼田の64mアンテナで運用したいと、3機から要求がありました。「あかつき」とIKAROSは同時打上げのため可視時間はほぼ同じで、どちらか1機しか臼田のアンテナを使えません。「はやぶさ」からは、重要運用のときは可視時間全部を使って運用したいとの話がありました。すべての要求を実現するのは不可能です。そのときは3機のメンバーが話し合い、それぞれ重要な運用日(IKAROSでは帆を広げるタイミングなど)を確認してみんなで妥協案を作成し、何とか乗り切りました。
あれから5年......。今年12月には、「あかつき」の金星周回軌道再投入と「はやぶさ2」の地球スイングバイが予定されています。うまく調整できるよう、コンタクトパスのシートとにらめっこの日々です。
(はせがわ・あきこ)
ISASニュース 2015年9月 No.414掲載