臼田宇宙空間観測所(UDSC)64mアンテナ局

1984年10月に完成した、我が国最大の口径64mパラボラアンテナを備えた地上局。ハレー彗星探査機「さきがけ」「すいせい」と交信する目的で、長野県南佐久郡臼田町(現 佐久市)の標高1450mの山中につくられた。市街地雑音の影響を極力避けるため、人里離れ、周囲を低い山々で取り囲まれた場所をわざわざ選定している。

臼田宇宙空間観測所(UDSC)64mアンテナの写真

図1 臼田宇宙空間観測所(UDSC)64mアンテナ局

当初はS帯(約2GHz帯)での送受信測距機能しかなく、その後、磁気圏尾部観測衛星GEOTAILで科学衛星として初めてX帯(約8GHz帯)ダウンリンクが採用されたので、それに対応するX帯受信機能が付加された。さらに、小惑星探査機「はやぶさ」からのアップリンクもX帯に変更されたため、それに対処すべくX帯送受信測距機能も付加された。

深宇宙探査機など回線が厳しいミッションとの交信を行うため、UDSC 64m局にはクライストロンと称する電子管を用いた20kWの大電力送信機を備えている。アンテナ自身は可動部分の自重が約2000トンもあり、自重変形の影響を軽減するために、副反射鏡位置を仰角の関数としてリアルタイムに補正するホモロジー補正機構を採用している。機械系の癖を除去する器差補正システムと自重変形の影響を受けずに高精度で絶対角度基準を形成するマスターコリメータ方式を採用することで、半値幅わずか0.034度しかない非常に細い電気軸を0.003度rmsという超高精度で駆動している。

また、受信系の徹底した低雑音化を図るため、最も感度の高い初段の増幅器には、素子を極低温まで冷却したガス・ヘリウム冷却式LNA(低雑音増幅器)が採用されている。深宇宙探査機の回線はそれでも厳しいので、受信機のPLL(位相ロックループ)帯域幅を1Hz以下まで絞って雑音をそぎ落としている。そのために探査機と地上局との相対運動で発生するドップラーシフトを止める必要があり、軌道予報値に基づくドップラー補償も行っている。ドップラー計測は積分型計測方式を採用し、低SN比での動作を可能にしている。測距もシーケンシャルPN(疑似雑音)レンジング方式のほか、さらに能力の高いPN再生レンジング方式(JAXAオリジナル)を開発・採用している。狭帯域受信、高精度ドップラー計測、高精度測距という目的を実現するには、非常に高安定の周波数基準と高精度の時刻系が必要となるが、UDSCでは水素メーザ発振器3台を用いた時刻系を構築し、対応している。

内之浦宇宙空間観測所(USC)34mアンテナ局

近地球衛星追跡用アンテナとして世界最強を目指したアンテナであり、口径34mであるにもかかわらず、方位角回転速度5deg/s、仰角回転速度2.5deg/sという高速駆動および自動追尾機能を実現している。このクラスの大型アンテナで、これほど高速駆動できるものは世界に類を見ない。

USC 34m局は大口径を活かし、UDSC 64m局のバックアップ運用もできるよう設備が構築されている。口径が小さくビーム幅の広い捕捉アンテナ受信系も装備されており、ビーム幅が細いにもかかわらず、衛星の初期捕捉能力は強化されているのが特長である。S帯1kWの固体増幅器が導入され、アップリンクの信頼性が格段に向上した。

内之浦宇宙空間観測所(USC)34mアンテナの写真

図2 内之浦宇宙空間観測所(USC)34mアンテナ局

USC 20mアンテナ局

GEOTAILからX帯ダウンリンクが採用されることとなったため、これに対応できる近地球衛星追跡局として1989年につくられた。製造から26年が経過したが、駆動系の更新、角度検出系の更新などのテコ入れが行われ、運用で混み合っているUSC 34m局からあふれてしまった衛星の運用をこなしている。

USC 11mアンテナ局

ロケットテレメータ受信と、惑星分光観測衛星「ひさき」や磁気圏観測衛星「あけぼの」といったS帯ダウンリンクのみを有する科学衛星の追跡局とを兼務する地上局としてつくられた。USC 11m局は種子島から打ち上がるロケットの飛翔保安上、極めて重要な役割を果たしている。

(やまもと・ぜんいち)

ISASニュース 2015年6月 No.411掲載