IKAROSのソーラーセイル膜面には、電気的に光学特性(反射率や吸収率)を変化させることのできるデバイス(液晶材料を使っていることから液晶デバイスと呼びます)が搭載されています。セイル膜面の外周部に搭載したデバイスの反射特性を場所ごとに変化させることによって、セイルに印加される太陽輻射圧を不均一にし、セイル全体の姿勢を変更するためのトルクを発生させるという考えです。IKAROSのようなスピン型ソーラーセイルは、セイルを展開するための構造部材が必要ないという観点で軽量(すなわち光圧による加速度を稼げる)というメリットがある反面、その大きなセイルを回転させていることによる大きな角運動量の方向を変える(姿勢制御する)には、多くの推進剤が必要になるという欠点がありました。液晶デバイスは、電気エネルギーのみで姿勢制御トルクを発生させることができます。軽くて性能が良くて、さらに(軌道制御だけでなく姿勢制御にも)推進剤を必要としない、究極の宇宙船につながる革新的なコンセプトを、IKAROSで実証しようとしたのでした。

一方で、液晶デバイスを実現するに当たっては課題もたくさんありました。デバイスの小片を試作しながら各種放射線や温度・真空などの宇宙環境耐性の評価をし、何とかいけそうとめどが立った後には、IKAROSの大きな膜面に搭載できるだけの大面積のデバイスを用意するために、効率的で再現性のある製造方法をメーカーさんと一緒に試行錯誤するなど、開発スケジュールに追われる忙しい日々を過ごしました。

ここでは書き切れないほどの苦労をして搭載までこぎ着けた液晶デバイスは、軌道上で無事に機能し、分離カメラによってその動作の様子の撮影に成功。姿勢制御実験においても想定した姿勢制御トルクをきちんと発生できました。開発者自身、「原理的にはちゃんと姿勢制御できるはずなんだけど、本当に物理法則の通り動くんだなぁ」と半分安心、半分驚きをもって、IKAROSのテレメトリを眺めていました。

図1 液晶デバイスの動作の様子

図1 液晶デバイスの動作の様子

図2 液晶デバイスによる姿勢制御実験

図2 液晶デバイスによる姿勢制御実験

(ふなせ・りゅう)