現在IKAROSは、太陽の光がセイルのおもて面(太陽電池がある面)に当たらなくなると冬眠し、光が当たり始めると冬眠から目覚めるというサイクルを、10~11ヶ月ごとに繰り返しています。IKAROSの最初の冬眠明け(2012年9月)については「冬眠・探索運用」で紹介していますが、その後2013年6月、2014年5月、2015年4月と合計4回の冬眠明けを経て、運用チームの探索技術はどんどん進化しています。

冬眠明けの最初の難関は、臼田宇宙空間観測所の64mアンテナから見てIKAROSがいる方向をいかに正確に割り出すかです。IKAROSは2011年を最後に、地球からの距離を測定するレンジングができていないため、予想される方向にはかなりの不確定性があります。軌道決定チームから毎回候補を提示してもらい、臼田の64mアンテナをそちらに向け、我々SV(スーパーバイザー)と運用支援の方とで、スペアナ(スペクトラムアナライザ)に表示される電波強度の微小な変化を連係プレーで見守ります。

何としてもIKAROSを見つけようと、運用前には毎回チームで知恵を出し合い、日々新たな手法にトライしています。2015年にはスペアナでも見つからないほど微弱な信号を、後解析で積分することで見つけ出す手法を確立することができました。ノイズの大海の中からIKAROSの特徴的な信号パターンを文字通り浮かび上がらせることができ、検出能力が飛躍的に高まっています。

こうして電波が見つかっても、キャリア(搬送波)が弱過ぎてロックオンしないため、テレメトリは通常の方法では確認できません。そこで「のぞみ」「はやぶさ」でも活躍したビーコン運用の出番です。IKAROSからの信号強度が変調の有無により上下することを「1」と「0」に見立て、調べたいテレメトリの値を「1」「0」の羅列に変換させてシリアル通信の要領で地上に送信させます。スペアナ画面上でピークが上下するのを読み取ればデータが得られるわけですが、かつては"心眼"でスペアナを凝視しながらデコードしていたのが、今では専用ツールのおかげでそれほど苦労なく情報を得られるようになりました。さらにピーク周波数の周期的な変動から、地球との相対姿勢やスピン周期の情報さえも得ることができます。

テレメトリがまったく見えず、QL(クイックルック装置。探査機の状態を数値などで画面に表示する装置)も数年来立ち上げていないというのは、衛星運用として極めて異例ですが、変調オンオフのコマンドを送ると確かに信号強度が上下して、IKAROSが生きていてこちらの命令に答えているのを実感できます。ほかの衛星では味わえない面白さがあります。このような信号強度ギリギリでの運用技術はマニアックな話題ではありますが、将来の超遠距離での探査にきっと役立つのではと期待しています。

(おがわ・なおこ)