IKAROSの技術や経験は、「はやぶさ2」へ多く引き継がれている。IKAROSは、真にすべてが限界に挑戦したプロジェクトであった。「のぞみ」や「はやぶさ」では救援運用時に使われたビーコン運用が、通信性能の低いIKAROSでは普段使いで採用された。おかげで、IKAROSメンバーは、地上に届く電波の波形をスペクトラムアナライザで見るだけで探査機の状態を読み取る"心眼"を身に付けた。「はやぶさ2」では、このビーコン送出機能はさらに進化したものが装備されている。最後にビーコン運用がある、という安心感は、運用の信頼性という意味で絶大である。

また、IKAROSで習得した太陽光圧を積極的に利用したスピン衛星の姿勢制御テクニックは、非スピンの衛星用に理論拡張され、「はやぶさ2」の巡航運用に採用された。この制御手法の解析には、JAXAの若手の職員や学生が意欲的に関わっている。

「はやぶさ2」に搭載されている分離カメラはDCAM3という名だが、これはIKAROSに搭載した分離カメラDCAM1、DCAM2の弟分に当たるから。姉・兄を踏み台にして、この弟はずいぶん機能・性能が向上した。

IKAROSで実験的に搭載されたDelta-DOR(高精度軌道決定技術)用のVLBI計測用マルチトーン送信器。IKAROSでのこの技術の成功が、「はやぶさ2」での日本初の主通信機へのDelta-DOR機能正式搭載へとつながった。

そして何よりも貴重なことは、IKAROSで限界の運用技術を経験したメンバーの多くが、「はやぶさ2」で主要な立場を担っていることである。この人たちのすぐギリギリ限界を試してしまいたくなる習性には要注意(!?)だが、IKAROSが我が国の旗艦ミッションである「はやぶさ2」への太陽系探査技術の継承に大きな役割を果たせたことは、望外の喜びだ。

(つだ・ゆういち)