IKAROSでは、セイルのねじれ変形により太陽光圧の作用で勝手に探査機のスピンレートが減少してしまう効果(風車効果)が見られました。IKAROSの燃料のほとんどは風車効果を相殺して姿勢を安定させるために消費されています。新しいソーラー電力セイル探査機では、燃料を消費せずにこれを相殺するために、IKAROSの液晶デバイスを改良した新型液晶デバイスを開発中です。改良ポイントは、電圧をかけることで反射率だけでなく反射方向まで変化させることです。これにより、姿勢制御に加えスピンレート制御も可能になります。ソーラー電力セイル探査機には必須の機能です。

現在、私は博士課程の学生という立場で開発に取り組んでいます。私が宇宙研に来た当時、IKAROSはすでに1回目の冬眠モードに入っており、新しいソーラー電力セイルミッションの検討が始まって日が浅いころでした。私にとって、本格的な検討に初めから携わることができている思い入れのあるミッションです。宇宙研3年目のころから新型液晶デバイス開発の主なスタッフとなり、開発初期段階という最も面白くおいしいところを経験させていただいています。

新型液晶デバイスの基本的な構造は、IKAROSの液晶デバイスを踏襲しています。IKAROS時代の開発話などを当時の担当者からヒアリングしたり、反射方向を変えるための基本的な実験をしたりすることなどから始めました。しかし改良といっても簡単なものではなく、ほかの研究室、メーカー、大学などさまざまな人たちに協力していただきながら、試行錯誤を繰り返しては結果に一喜一憂する日々です。それでもこの一つのデバイスに多くの人たちが携わり、少しずつつくり上げていくことは楽しく、ある意味、宇宙探査機開発の醍醐味がこのデバイスにも凝縮されている気がします。

今は新型液晶デバイスが宇宙で機能する日を頭に思い描きながら精進するのみです。

(ちゅうじょう・としひろ)