「ひさき」による長期継続観測から、数時間~数カ月のさまざまな時間スケールの木星オーロラ発光強度変動が捉えられました。オーロラを引き起こすオーロラ電子の流れは、木星から木星周辺の宇宙環境へとエネルギーおよび角運動量を輸送します。「ひさき」の発光スペクトルの解析から、オーロラ電子のエネルギーの変動の特徴が明らかになりました。
木星オーロラの電子エネルギーは、メタンによる紫外吸収効果が異なる波長帯の強度比(Color Ratio, CR)を指標として求められます。一般に用いられるCRの波長帯は123〜130 nm と155〜162 nmですが、後者は「ひさき」搭載EXCEED観測器の観測波長の範囲外です。そこで、観測器の波長特性を踏まえて、126.3〜130 nmと138.5〜144.8 nmを用いる、新しい強度比を導出しました。これを用い、観測された木星オーロラ発光変動時のオーロラ電子の特徴調査を行いました。モデルで予測した太陽風の動圧増大に対応する数日にわたるオーロラの増光と、太陽風が静穏な時期における木星1自転(約10時間)よりも短いオーロラの増光が検出されました。増光時のオーロラ電子エネルギーの変化は小さく、オーロラ発光強度変化はエネルギーよりも電子数の増大が主要因であることが初めて明らかになりました(10-図1)。太陽風による外部起因の変動と、それによらない磁気圏内部駆動の変動で、オーロラ電子の変化の特徴が継続時間以外には変わらないという結果でした。磁気圏粒子のパラメータ(プラズマ密度・温度)の変動量がオーロラ加速理論から求まり、磁気圏ダイナミクスに伴う断熱的加熱効果およびオーロラ発光位置変化のモデルを、観測結果をもとに定量的に議論することができました※1,2。
2015年1月の衛星イオの火山活動活性時には、発光強度変化が大きい短時間増光が見られ、これらはオーロラ電子数の非常に大きな増大によるものでした。他方、オーロラ電子エネルギーは期間を通して30%ほど小さくなっていました。オーロラ電子のエネルギーとエネルギー流入量の関係を、10 -図2に示します。オーロラ電子加速理論と比較すると、火山活動が活発になった時には、オーロラ電子の起源である磁気圏の数keVのプラズマが増大したことを示唆します。加えて、2年分の長期データから、北極のオーロラ発光強度の中央値は1.3 TWと求まりました※3。木星の熱圏が約1,000度と太陽紫外線加熱では説明できないほど高温に維持されている謎や極域のエネルギー収支を議論するうえで重要な制約を、観測から与えることができました。
10 -※1 C. Tao et al., J. Geophys. Res., 121, 4041-4054, doi:10.1002/2015JA021271 (2016).
10 -※2 C. Tao et al., J. Geophys. Res., 121, 4055-4071, doi:10.1002/2015JA021272 (2016).
10 -※3 C. Tao et al., Geophys. Res. Lett., 45, 71-79, doi:10.1002/2017GL075814 (2018).