これまでのハッブル宇宙望遠鏡や地上赤外観測により、木星のオーロラは太陽風動圧増大時に増光することが知られています。しかし、これらの観測は断片的だったためオーロラ変動の統計的描像は不明瞭でした。さらに、2014年初旬の「ひさき」の観測により、必ずしも太陽風動圧の増大時に木星オーロラが増光するとは限らない、という可能性が示唆されました。そこで、「ひさき」の2年間のデータを用い、木星オーロラと太陽風の関係を統計的に解析しました※1。解析には「ひさき」で取得した紫外スペクトルデータを使用し(90〜148nm・10分の積分値)、太陽風のデータは地球近傍の観測データを元にした1次元MHDモデルを使用しています。9-図1は観測の一例で、木星紫外オーロラ強度(上)と太陽風動圧(下)の時間変化です。太陽風動圧が増大するタイミングで紫外オーロラの強度が増加していることがわかります。さらに、Day of year~18とDay of year~26付近に着目すると、太陽風動圧変化はほぼ同じですが、前者では紫外オーロラが反応し、後者は反応していないがわかります。
まずは、太陽風動圧の増大にオーロラの増大が対応するかを調べました。太陽風動圧がある閾値を超えたタイミングを基準として太陽風と紫外オーロラのデータを重ね合わせます。そうすることで、太陽風とオーロラの統計的な時間変動の様子が浮かび上がってきます。今回は5日以上太陽風が静穏な状態が続き、その後動圧が増大した9イベントを用いました。その結果、動圧が増大したタイミングでオーロラが明るくなることが統計的に示されました。この事実は、太陽風が5日以上の静穏であると、木星オーロラが増光することを意味しています。次に、オーロラの強度変化量と太陽風動圧の変化量、及び太陽風が静穏な時期の長さに着目し、相関関係を調べました。すると、太陽風静穏期の長さとオーロラの変化量の間に正の相関があることがわかりました。一方で、太陽風動圧の変化量とオーロラの相関関係は弱いことがわかりました(9-図2)。これらを総合すると、太陽風変動は木星オーロラの増大を「トリガー」しますが、どの程度明るくなるかについては太陽風が静穏な期間の長さに要因があることを示唆しています。
これらの統計解析は、「ひさき」の連続データによって初めて成し得たもので、木星オーロラと太陽風の新たな関係が明らかとなりました。この現象の解釈として、太陽風の静穏期が長いほどより多くのプラズマが磁気圏に蓄積されるためだと推察しています。木星の衛星イオは定常的にプラズマを磁気圏に供給しています。磁気圏内に蓄積されたプラズマが太陽風擾乱によって解放され極域に降込み、オーロラが発光するというのが可能性の一つです。他にも幾つかの可能性があり、今後の課題としてこの現象を説明できるプロセスを特定する必要があります。現在活躍中のジュノーや地上赤外観測などを通じ、オーロラと太陽風の関係を一つ一つ検証していくことが現象の解明につながると考えています。
9-※1 H. Kita et al., Geophys. Res. Lett., 43, 6790-6798, doi:10.1002/2016GL069481 (2016).