太陽系の惑星たちは常に秒速数100 kmに及ぶ太陽風にさらされ続けています。この太陽風に対して重要なのが惑星のもつ大規模磁場の存在です。惑星のもつ磁場は太陽風に対してバリアのような役割を果たす磁気圏を形成しています。地球は磁場のおかげで周囲に磁気圏を形成し太陽風の直撃を免れています。ただし、太陽風エネルギーの一部は磁気圏内に侵入しオーロラや放射線帯などを引き起こしています。一方、大規模な磁場をもたない火星や金星では太陽風の影響を直接受け、現在も大気の一部が宇宙空間へ吹き流され続けています。

木星は地球の約2万倍もの強い磁場をもっており、木星が作る磁気圏バリアは太陽系で最大・最強です。しかも地球に比べ太陽から遠いため、磁気圏の内部深くに守られている木星の近傍には太陽風の影響など及ぶはずがないと考えられてきました。一方で、太陽風の影響を示唆する観測事実もありました。それは衛星イオの火山ガス起因のプラズマ雲(イオプラズマトーラス)に現れます。トーラス中のプラズマの明るさは平均的に夕側で明るく、朝側で暗いという非対称性があることが知られていました(8-図1)※1。しかしその朝夕非対称性のメカニズムはこれまで観測的な証拠もなく未解明のままでした。

8- 図1

8-図1 「ひさき」が2014年1月1日に捉えた木星近傍のイオプラズマトーラスのスペクトル画像。木星の自転と共に木星の周りを回転している硫黄イオンの発光強度を示している。朝側に比べて夕側でより明るく光っている様子がはっきり捉えられている。

我々はイオプラズマトーラスで観測される朝夕非対称性は木星近傍に太陽風が何らかの影響を及ぼしているのではないかと考え、惑星分光観測衛星「ひさき」で継続的な観測を行いました。

8-図2(a)※1は「ひさき」が2014年1月に観測したイオプラズマトーラスにおける朝夕非対称性(朝側と夕側の明るさの比)の時間変化を示しています。この結果から我々は、平均的に夕側の方が明るいという既知の観測事実だけでなく、激しく時間変化しており時には突発的に夕側が朝側の2.5倍以上も明るくなる事実を見出しました。また8-図2 (b)※1は地球近傍の衛星による観測結果から見積もられた木星での太陽風の強さ(動圧)の時間変化を示しています。8-図2(a)と(b)を比較すると、矢印で示されている通り今回「ひさき」により見出されたイオプラズマトーラスの朝夕非対称における突発的な変化が太陽風の変動に応答していることがわかります。すなわち、太陽風の影響は、太陽系最強のバリアである木星磁気圏の内部深くにまで及んでいるのです。この観測結果により、これまで考えられてきた「太陽風は木星磁気圏の内部に影響を及ぼさない」という定説を覆すことになります。この結果は米国地球物理学会レターに掲載されました ※1

8- 図2

8-図2 (a)「ひさき」が2014年1月に観測したイオプラズマトーラスにおける朝夕非対称性の時間変化と(b)太陽風の強さ(動圧)の時間変化のグラフ。矢印および点線で、木星近傍に強い太陽風が到達するとイオプラズマトーラスが応答し朝夕非対称性が強まっている(夕側が朝側に比べて明るくなっている)時間帯を示す。

太陽風の影響が木星近傍まで侵入できるメカニズムとして、木星の外側(木星半径で20~30倍程度の距離)に流れる円盤状の電流が太陽風の影響を受け、その一部が木星の磁力線に沿って流れ込み、木星近傍にまで達する、という説があります。この仮説を検証するには、数値シミュレーションによる研究と木星近傍で得られるその場の観測データが必要です。研究チームは現在、2016年7月に木星周回軌道に投入されたNASAの木星探査機ジュノーと「ひさき」による同時観測を行い、ジュノーが観測する木星近傍での電流の変化と「ひさき」によるイオプラズマトーラスの時間変化を比較することでその因果関係を明らかにすべく、海外の研究者らと協力して準備を進めています。

8-※1 G. Murakami et al., Geophys. Res. Lett., 43, 12,308-12,316, doi:10.1002/ 2016GL071675 (2016).