ジオスペース探査を行うERG( 「あらせ」) プロジェクトの縁の下の力持ち的な存在であるERGサイエンスセンター(ERG-SC:https://ergsc.isee.nagoya-u.ac.jp)は、「あらせ」に関連する研究を行っている国内外の研究者・学生の皆さんに、日々色々な形で利用して頂いています。ここでは、ERG-SCとは何なのか、また実際にどのようなことをやっているかについて、簡単に紹介させて頂きたいと思います。

ERG-SCと言えば、ジオスペース研究に携わっている人達の中では、「あらせ」関係の科学データやその解析ツールを公開しているところ、というイメージが強いと思います。しかしそれ以外にも、国内外の関連プロジェクトとの各種調整を行って共同観測を立案・実施したり、またそれを「あらせ」の観測計画に反映させたりするなど、衛星自体の運用にも携わっています。さらにサイエンスセンターのメンバー自身も「あらせ」に関連する研究を多くの共同研究者と一緒に行っています。つまりERG-SCは、プロジェクトの研究活動を担う研究センター(の1つ)であり、科学データや解析ツールをアーカイブ・公開する科学データセンターであり、また関連研究プロジェクト間の協働を推進するコーディネーションセンターでもあるのです。

マルチな役割を果たしている中でも、やはりERG-SCの中核をなしているのは「あらせ」の科学データアーカイブと統合データ解析ツールの開発・公開です。「あらせ」を含む人工衛星の観測データは、地上受信局で受け取った際には通常衛星独自のファイル形式で保存されますが、そのままではデータのユーザー(具体的には国内外の研究者)にとって使いにくい状態になっています。そのような観測データについて、まず補正された時刻情報など必要な付属データを付与して、また観測器が直接出力する工学値データの場合は、科学解析に使用できるようにしかるべきデータ較正を適用して物理量に変換します。さらにデータ自体を説明するための様々な情報(メタデータと呼ばれます)を業界標準の形式に沿って追加した上で、Common Data Format(CDF)と呼ばれる、やはりジオスペース研究業界で標準的に使われているファイル形式の1つに変換します。これをERG-SCのオンラインデータリポジトリから公開することで、世界中の研究者がダウンロードして各自が得意とするツールで読み込むことができ、そしてそこに含まれる情報を基にただちに科学データ解析を行うことができるのです。

またこのようにデータを整備することによって得られるもう1つの大きなメリットは、全世界で多くのジオスペース研究者が使っている統合データ解析ツール、Space PhysicsEnvironment Data Analysis System(SPEDAS) に容易に組み込み可能となる点です。これにより、国内外の関連衛星データや地上観測データをシームレスに組み合わせた解析が容易に行えます。またERG-SCでは、日本のジオスペース業界初の試みとして、国内研究機関から提供される様々な関連地上観測データを同じ基準でCDF形式のデータファイルに変換して、統一的なデータリポジトリから衛星データと一緒に公開しました。これにより、 独自ファイル形式等の理由でSPEDASに組み込まれていなかった多くの国内地上観測データが、SPEDAS上で解析可能になりました。その効果は絶大で、この特集号で紹介されているような、「あらせ」と地上観測とを組み合わせた多くの先端的な研究成果を生み出す、原動力の1つになりました。

また、これらは単なる技術的な仕事として行われたのではなく、サイエンスセンターのメンバーや共同研究者による科学研究との両輪で進められていきました。結果として、大変創造的かつ実践的な開発と整備を行うことができ、そのため研究活動へのフィードバックが最大化されて多くの研究成果につながったのです。これらの活動を通して、ERG-SCは、データアーカイブやデータシステムを研究と融合させていくためのテストベッドとしての役割を果たしつつ、その過程で、多くのデータ処理・解析・整備の手法、そしてそのような経験・技術を持つ人材を生み出す"ゆりかご"になったと思います。今後は、これまでに得られた知識・技術・経験とまたそれを持つ人材がさらなる発展を遂げることで、このサイエンスセンターが、太陽圏科学の探査プロジェクトを推進する拠点として引き続き発展していってくれたらと期待しています。

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図1: ERGサイエンスセンターが果たしている役割