オーロラアークの発光は、そのさらに上空の静電場のあるオーロラ加速域で下向きに加速された電子と、大気の衝突、励起・緩和により起こります。静電場が生成する原因は未だはっきりとは特定されておらず、電子がどの高さで加速されているかがその謎を解く鍵とされてきました。過去50年間にわたるロケットや人工衛星の観測から、オーロラ加速域は電離圏のプラズマと磁気圏の熱いプラズマが混じり合う高度数千kmの領域を主に、高度20000km以下までは存在しうるものの、高高度側の寄与は小さいと考えられていました。これまでのオーロラ加速の理論はこういった低い高度を中心とした加速域の高度分布を前提としていました。

「あらせ」はその独特の軌道により、これまで加速域の上限とされていた高度の一段上の領域を頻繁に飛翔します。高高度から加速されて発光高度まで降り込み、消失する電子は極めて狭い角度分布を持っていますが、「あらせ」は非常に高い角度分解能を持った電子観測機器を搭載しているためこれを捉えることができます。

2017年9月15日、広域視野と高空間分解能を持った米国THEMIS全天カメラによってオーロラアークが観測されているときに、「あらせ」がその上空高度約30000kmで観測するという極めて稀な同時観測が実現し、「あらせ」のいる超高高度でも電子が加速されているのか、加速された電子が実際にオーロラの発光領域まで降り込んでいるかどうかをみるユニークな機会を得ることができました。

その結果、これまで低高度で観測されてきた典型的な加速域の特徴と非常によく似た粒子、電磁場の変動が、オーロラアークに繋がる磁力線の高度30000km付近もの超高高度でも発見されるという予想外の結果がもたらされました。特に、単一エネルギーを持った下向きの電子が観測されたことは、衛星より上側での静電的な加速の強い証拠です。そのエネルギーから推定される、衛星より上側の加速のオーロラ発光域までの加速全体への寄与は20 ~ 45 %にも及びます。さらに、「あらせ」の低エネルギー電子分析器LEP-eの持つ高角度分解能チャンネルにより、下向きに加速された電子がオーロラ発光高度で消失し、対応する上向き電子が欠損する様子を高高度で初めて捉えました(図1、2)。

これらの結果は高度数千kmの領域を中心として高度20000km以下までと考えられていた加速域の高度方向の広がりの定説を覆すものです。典型的な加速域高度と全く異なるプラズマ・磁場環境である超高高度で、なぜ静電的加速メカニズムが存在しうるのかを明らかにすることが今後の課題です。また、超高高度加速域はオーロラのエネルギー源である磁気圏赤道面付近とエネルギーの流れ込む電離圏を繋ぐ磁力線の中間地点にあり、この研究を深めて得られる知見は、磁気圏と電離圏の結合過程を理解するうえでも重要となるでしょう。

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図1: 電子の位相空間密度の速度分布(ある速度を持った電子の数の分布)と、衛星より下側の加速から予測される降り込み可能な領域の境界(青線)。下向き加速された電子が、降り込み可能な領域の内側で観測され、さらに対応するオーロラ発光高度での消失による上向き電子の欠損が観測された。

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図2: 超高高度から加速された電子がオーロラ発光領域まで降り注ぐイメージ。© ERG science team

名古屋大学からのプレスリリース:
https://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/researchinfo/upload_images/20210119_isee1.pdf