ジオスペースで発生する多種多様な自然電磁波(電場・磁場の振動)は、放射線帯の形成・消失を始めとした宇宙のプラズマ環境変動を引き起こす重要な役割を担っています。北極圏などの人里離れた静かな地域にアンテナを設置すると、それらの自然電磁波が地球上でも観測されることがあります。では、一体それらは宇宙のどこで生まれて、どのように宇宙空間を伝わっていくのでしょうか?それを明らかにするには、宇宙から現象を観測するとともに、複数の観測拠点を連携させた同時多地点観測によって、現象を三次元的に捉える必要がありました。

日本・アメリカ・カナダの研究者らから構成される国際共同研究グループは、「あらせ」(日本)とVan Allen Probes(アメリカ)による宇宙からの観測と、PWINGプロジェクト(日本)とCARISMA magnetometer array(カナダ)による地球からの観測を連携させることで、宇宙の自然電磁波の一つである「電磁イオンサイクロトロン波」の同時多点観測を実現させ、波が伝わる様子や宇宙環境の変動を引き起こす様子を三次元的に捉えることに成功しました* 1 , 2。自然電磁波の同時多地点観測を成功させるためには、次の3つの条件が整っている必要がありました。①科学衛星に搭載、あるいは地上観測拠点に設置した観測装置が、微弱な自然電磁波を捉える能力を有すること。②各観測拠点が、自然電磁波の"通り道"上でフォーメーション(連携観測体制)を組んでいること。③発生タイミングの予測が難しい自然電磁波が、フォーメーション上に発生していること。――2012年から2016年ごろ、筆者は「あらせ」に搭載したプラズマ波動・電場観測器(Plasma WaveExperiment; PWE)の開発メンバーとして、観測能力の高度化に力を注いできました。2017年に「あらせ」が定常観測を開始し、自然電磁波を的確に捉えていることが分かってから、今回のような科学成果を生み出す機会を心待ちにしてきました(→①)。さらに、今日に至るまでの約5年間、軌道上を高速で移動する複数の衛星と、地球上に固定された地上観測拠点の位置関係を予測し、条件が整った場合に「あらせ」が最高のパフォーマンスで科学観測を行うための、日々の観測計画立案を続けてきました(→②)。「準備は整った!来たれ電磁波!」あとはひたすら神に祈るのみです(→③)。まさに人事を尽くして天命を待ち、実現したのが2019年4月の電磁イオンサイクロトロン波の同地多地点観測だったのです。

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図1:衛星と地上の計4 拠点による電磁イオンサイクロトロン波の同時多地点観測結果

図1 は、4拠点で観測された電磁イオンサイクロトロン波の様子です。地磁気赤道付近のVan Allen Probesと地上のPWING、 CARISMAでは、極めて類似性が高い電磁イオンサイクロトロン波が観測されていることから、地磁気赤道と地上とを繋ぐ約50000 kmの長さの"通り道"が形成されていることが分かります。さらに、その中間(中緯度帯)に位置する「あらせ」が"通り道"を横切って観測することで、"通り道"が有限の太さ(断面の大きさ)を有していることを明らかにしました。"通り道"の太さは、通り道の地球側出口となる電離圏の高度では直径約80 km程度しかなく、細長いストロー状の "通り道"が極めて局所的に存在していることが分かったのです。さらに、「あらせ」とVan Allen Probesでは、"通り道"の中の電磁イオンサイクロトロン波によって、冷たいプラズマが加熱される様子も同時に観測され 、"通り道"の中で宇宙の環境変動が起きている様子を捉えることができました。また、電磁イオンサイクロトロン波は、高エネルギーイオンを散乱させ、地球大気へと降り込ませます。これによって生まれるのが、地上でも観測される「プロトンオーロラ」と呼ばれる青色のオーロラです。つまり、本国際共同研究の成果は「プロトンオーロラのエネルギー源が生まれる領域を明らかにした」とも言い換えることができます。この成果をもとにして、宇宙のプラズマ環境変動がさまざまな場所で同時に起きるメカニズムの解明、すなわち、安全な宇宙利用に向けた「宇宙天気予報」の精度向上への貢献が期待されます。

国際連携なくして、このような研究を成功させることはできませんでした。各国が開発した高性能な科学衛星や地上観測装置が連携することで、宇宙環境を立体的にモニタリングできることを示したのです。打ち上げ後5年を経てもなお健康体の「あらせ」が、次の観測好機を迎えることを心待ちにしつつ、将来の科学衛星ミッションでは宇宙の立体視が当たり前になる世界を夢みています。

*1 S. Matsuda et al., Geophys. Res. Lett., 48 , doi: 10.1029/2021GL096488(2021)
*2 プレスリリース:https://www.se.kanazawa-u.ac.jp/news/20211208.html