国際宇宙ステーション(ISS)で宇宙線の観測を行っているカロリメータ型宇宙電子線望遠鏡(CALET)の運用データをみていると、高緯度地域を通過する際にMeV電子が大量に降り注いで来る現象(Relativistic Electron Precipitation=相対論的電子降下)が起こっていることに気が付きます。REPは、ISS船外活動中の被ばく要因の一つとしても注目されているため(Ueno et al., 2019 , Space Weather)、その成因を明らかにすることは、有人宇宙活動を支える研究課題でもあります。このISSで観測されるREPの成因については、「あらせ」とISSが同じ磁力線上に配置される磁気共役同時観測によって、コーラスやEMICといったプラズマ波動であること、また、プラズマ波動の種類によって、ISSで観測されるREPの時系列の特徴が異なることが明らかになりました(Kataoka et al., 2020 , JGR)。

磁気共役同時観測というのは、昭和基地と磁力線のつながったアイスランドにおいて、国立極地研究所が長期にわたりオーロラ観測を展開している最大の理由でもあります。「あらせ」・昭和基地・アイスランドが磁気共役となった絶好のタイミングで、オーロラ爆発が起こった、という例もありました。驚いたことに、オーロラ爆発は南北半球で非対称に発展し、その一因である主磁場の歪みが「あらせ」で捉えられています(Uchida et al., 2020 , GRL)。また、昭和基地の大型大気レーダーPANSYが、オーロラ爆発の瞬間に、普段は電離のみられない中間圏65 km高度が電離する、という珍しい現象を捉えた際にも、その中間圏電離の直接的な原因であるMeV電子のスパイクを「あらせ」が観測していた、という幸運な例もあります(Kataoka et al., 2019 EPS、極地研プレスリリース2、https://www.nipr.ac.jp/info/notice/20190208.html 、エディターハイライト)PANSYと「あらせ」の共役観測研究は、その後も発展しており、オーロラ爆発が始まる前のgrowth phaseの時点で、活発なプラズマ波動の影響によらないMeV電子の降り込みによる中間圏電離が普遍的にみられる、ということも明らかになりつつあります(Murase et el., 2021, submitted to JSWSC)。

これらの例のように、ISSや地上で観測される高エネルギー現象の具体的な成因は、磁気圏の直接観測データから明確に絞り込まれ、ひとつひとつ謎が解き明かせる時代となっており、そのためにも「あらせ」は欠かせない存在となっています。また、紹介した例は、単なる幸運という話ではなく、計画準備の当時から長期にわたって、そういった磁気共役観測実現のチャンスを最大化する努力を重ねてこられた「あらせ」関係者の先見と、その恩恵のひとかけらにあずかれた例であることも申し添えたいと思います。

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図1:(極地研プレスリリース1 : https://www.nipr.ac.jp/info/notice/20200904.html, Kataoka et al., 2020, JGR )あらせ衛星のプラズマ波動観測データ(左)と、国際宇宙ステーションでのREPの観測データ(右)。上から順に、EMIC波動によるREP、コーラス波動によるREP、静電ホイッスラー波動によるREP。