オーロラは、カーテン状や雲状などさまざまな形態があり、発光時間も数秒から数時間輝くものなど多様な出現時間を示します。アラスカでは、わずか数百ミリ秒しか発光しない雲状のフラッシュオーロラが観測されていました。フラッシュオーロラは、1970年代よりジオスペースの孤立コーラス波動と高エネルギー電子のピッチ角散乱によって生じていると予想されていました。ここで、孤立コーラス波動は、数百ミリ秒の存続時間を示し、背景磁場の約1%に到達することもあるほど大振幅かつ周波数変動を伴う非線形な電磁波です。このため、孤立コーラス波動とフラッシュオーロラの対応を明らかにすることができれば、非線形な波動粒子相互作用過程の瞬間(ミリ秒オーダー)をオーロラとして可視化でき、ジオスペースにおける高エネルギープラズマの瞬時的な生成と消失の理解に大きく貢献します。これを実現するには、地上ネットワーク観測と協力し(国際協調により、世界各地に地上ネットワーク観測が構築される様子は、https://www.isee.nagoya-u.ac.jp/dimr/PWING/ の観測だよりからご覧ください)、フラッシュオーロラと同じ磁力線で結ばれるジオスペースで、孤立コーラス波動の一つ一つの波束を分解する高時間分解能・高い電磁界検出感度かつ電磁的にクリーンな衛星環境での、その場観測が必要です。「あらせ」は、「あけぼの」、「GEOTAIL」に搭載されたプラズマ波動観測装置開発より脈々と築き上げられてきたEMC対策技術(コラム「ノイズとの戦いと共存」をご参照ください)の集大成として、世界トップクラスのクリーンな電磁環境を有する科学衛星です。さらに、機上デジタル処理による高時間分解能の膨大な観測データを限られた容量に抑えるデータ圧縮技術などにより、定常観測開始直後の2017年3月30日に、「あらせ」は離散的な孤立コーラス波動を捉えました。同時に、「あらせ」と3万km以上離れた磁力線でつながるアラスカ付近では、まるでストロボ発光のようなフラッシュオーロラを検出していました。こうして、フラッシュオーロラの数百ミリ秒という短い出現時間は、最新の「あらせ」と地上ネットワーク観測との協調観測(図1 参照)により解明されました※1、2

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図1:「あらせ」と地上ネットワーク観測による協調観測イメージ(QRコードより、孤立コーラス波動とフラッシュオーロラの同時観測例をご覧いただけます)© ERG science team

しかし、なぜフラッシュオーロラがちぎれた雲状の形状を示すのかは、「あらせ」と地上観測だけでは分かりませんでした。これを理解するには、孤立コーラス波動の発生域からの伝搬過程が重要と考え、我々は磁気圏での孤立コーラス波動の詳細な伝搬解析と電離圏でのオーロラ発光計算を組み合わせた計算モデルを新たに開発しました。そして、コンピュータ上で地上より観測されたフラッシュオーロラの形状変化と時間特性を再現することに成功しました(図2参照)。数値計算の結果、フラッシュオーロラが雲状に低緯度側に拡大するのは、磁気圏の孤立コーラス波動が発生域につながる磁力線から少しずつ逸脱し地球側に偏って伝搬するためであるということを明らかにしました※3、4

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図2:フラッシュオーロラの数値計算イメージ(QRコードより、解説動画をご覧いただけます)

コーラス波動と電子群との波動粒子相互作用は、地球だけでなく木星や土星など固有磁場をもつ惑星においても生じていることが知られています。地球磁場強度の約1%の固有磁場しかもたない水星では、まだコーラス波動は観測されていません。しかし、磁化惑星である水星でもコーラス波動は水星磁気圏における電子ダイナミクスに深く関与していると考えられます。「あらせ」が明らかにする最新のジオスペース描像と水星に向けて航行中の水星磁気圏探査機「みお」(2018年打上げ)による水星でのプラズマ波動観測※5から、水星磁気圏理解への応用がこれから期待されます。

※1 Ozaki, M., Miyoshi, Y., Shiokawa, K. et al. Visualization of rapid electron precipitation via chorus element wave-particle interactions. Nat Commun 10, 257(2019).  https://doi.org/10.1038/s41467-018-07996-z

※2 金沢大学ウェブサイト https://www.kanazawa-u.ac.jp/rd/63906

※3 Ozaki, M., Inoue, T., Tanaka, Y., Yagitani, S., Kasahara, Y., Shiokawa, K., et al.(2021). Spatial evolution of wave-particle interaction region deduced from flash-type auroras and chorus-ray tracing. Journal of Geophysical Research: Space Physics, 126 , e 2021 JA 029254.  https://doi.org/10.1029/2021JA029254

※4 金沢大学ウェブサイト https://www.kanazawa-u.ac.jp/rd/94176

※5 Yagitani, S., Ozaki, M., Sahraoui, F. et al. Measurements of Magnetic Field Fluctuations for Plasma Wave Investigation by the Search Coil Magnetometers(SCM) Onboard Bepicolombo Mio(Mercury Magnetospheric Orbiter). Space Sci Rev 216, 111(2020).  https://doi.org/10.1007/s11214-020-00734-2