極地方の夜空を彩るオーロラは、高さ100 km付近に存在する酸素や窒素などの大気が発光する現象です。オーロラが光っている場所には、ジオスペースから地球の磁気に導かれて高いエネルギーを持った電子(オーロラ電子)が落ちてきています。オーロラは、渦巻いたり、脈を打ったり、多種多様な形態・変化を示しますが、それらの変動を支配する物理過程を理解するためには、オーロラ電子の巣であるジオスペースの直接探査が不可欠です。特に、衛星によってジオスペースを直接探査しながら、対応する地上の領域をカメラで同時に撮像することが重要になります。しかし、衛星観測と地上観測のそれぞれを専門とする研究者が、密に連携して同時観測を立案・実施することは、あまり行われてきませんでした。

私たちは、「あらせ」が打ち上げられる数年前から、世界でもあまり例がない衛星・地上連携観測を行うための準備を進めてきました。オールジャパンの体制で、北欧およびアラスカに計8式の高速撮像カメラを設置し、「あらせ」の探査領域と磁力線で繋がった場所を広くカバーするオーロラ観測網をつくりあげました。しかし、「あらせ」がカメラの観測視野の中を通過する機会はそれほど多い訳ではありません。また、地上からのオーロラ観測には、観測の成否が天候に左右されるという大きなハンデもあります。良い同時観測行うためには、数年間の「しんぼう」が必要になることを覚悟しながら、衛星の打ち上げを迎えました。

「あらせ」が定常観測を開始したのは2017年3月の終わり頃でした。北極では、4月に入ると夜はどんどん短くなり、オーロラ観測を実施できる時間が急速に減っていきます。最初のシーズンで残されたチャンスは3月末の10日間、このチャンスを逃せば、翌年の冬まで同時観測の機会を待たなければなりません。その10日間も終わりにさしかかった頃、千載一遇のチャンスが巡ってきました。まず、3月29日に北欧のカメラの観測視野内を「あらせ」が通過しているときに、活動的なオーロラが数時間にわたって観測されました。その翌日にはアラスカ、さらにその翌日には再び北欧において、「あらせ」との同時観測を達成することができました。わずか10日間のチャンスの最後の3晩に良い観測事例が得られたのです。

図1に、オーロラの時間変化(白黒のプロット)と、同時刻に「あらせ」によって観測された「コーラス」と呼ばれる電磁波のデータ(カラーのプロット)を示します。左側の北欧の例では、数秒の周期で明滅をくりかえす「脈動オーロラ」とコーラス波動の強度が1対1に対応していることがみて取れます1。これは、コーラス波動によって電子がリズミカルに地球大気にたたき落とされ、そのリズムがオーロラの「脈打ち」をつくりだしていることを示しています。右側のアラスカの事例は、秒以下の時間スケールにズームインして両者の対応をみたものですが、オーロラの「またたき」がコーラス波動の「さえずり」によって完璧にコントロールされていることが分かります。この他にも、3月末の奇跡の3日間に得られたデータによって、脈動オーロラに関する様々な実証的研究を行うことができています2-7

「あらせ」と地上の協調観測は、国際連携の枠組みに発展する形で継続され、さらに多くの同時観測事例が積み上がっています。ジオスペースと地球大気の間の「目ではみえない繋がり」を、これらの「奇跡の同時観測」によってさらに詳しく調べていければと考えています。

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図:北欧(左)、アラスカ(右)における脈動オーロラとコーラス波動の同時観測事例、オーロラ画像の南北断面を時系列にした白黒の図はオーロラの脈打ちを示す。カラーの図で示されているコーラス波動の強度と1対1の対応があることが分かる。

関連論文 :
1. Hosokawa, K., et al., Scientific Reports, 10,
https://doi.org/10.1038/s41598-020-59642-8, 2020
2. Ozaki, M., et al., Geophysical Research Letters, 45,
https://doi.org/10.1029/2018GL079812, 2018
3. Hosokawa, K., et al., Journal of Geophysical Research, 126,
https://doi.org/10.1029/2020JA028838, 2021
4. Fukizawa, M., et al., Geophysical Research Letters, 45,
https://doi.org/10.1029/2018GL080145, 2018
5. Ozaki, M., et al., Nature Communications, 10,
https://doi.org/10.1038/s41467-018-07996-z, 2019
6. Kawamura, S., et al., Journal of Geophysical Research, 124,
https://doi.org/10.1029/2019JA026496, 2019
7. Miyoshi, Y., et al. Scientific Reports, 10,
https://doi.org/10.1038/s41598-021-92611-3, 2021

プレスリリース:
宇宙の電磁波の「さえずり」がオーロラの「またたき」を制御(電気通信大学)
https://www.uec.ac.jp/about/publicity/news_release/pdf/20200305.pdf

動画:
脈動オーロラの主脈動とコーラスバーストの対応関係を示した動画
https://static-content.springer.com/esm/art%3A10.1038%2Fs41598-020-59642-8/MediaObjects/41598_2020_59642_MOESM3_ESM.mov