「あらせ」のように、電磁場を捉える観測器が搭載される場合は、厳しいEMC基準が設定されます。EMC(ElectroMagneticCompatibility)は、「他の機器の性能劣化や誤動作を起こすノイズを出さないで下さいね」というものです。本来、EMCは、「ノイズに対して強くする」という、逆の項目もあります。ただ科学衛星のEMCの場合、観測対象は微弱な自然現象であることが多く、結局、「ノイズを出さないようにする」、という立場でEMCを考えることが多いです。「あらせ」でも相当な時間がEMCに費やされました。なぜEMCに時間がかかるかというと、搭載機器一つ一つを、宇宙研の磁気シールドルーム内に持ち込んで、ノイズを測定するからです(EMもFMも)。単体EMCと呼ぶこの試験では、「試験系設定」、「供試体の動作確認」、「供試体offで背景ノイズの測定」、「供試体からのノイズ測定」、「高いレベルのノイズがみつかった場合の原因究明と対策」、という作業を行います。測定を担当するのはJAXAのみなさんと、ノイズの影響を一番受ける、プラズマ波動・磁場観測チームです。一つの機器に3 ~ 7日かかりっきりになります。合計すると、チーム担当者は、自分の機器の試験をしているより、EMC試験をしている時間の方が長いのではないかと思います。上のプロセスの中で一番時間がかかるのが、「高いレベルのノイズがみつかった場合の原因究明と対策」 です。特に対策は、担当メーカーの方々と議論して軽減方法を探ります。EMCは、多くの人たちの時間と体力と予算!を消耗しながら進んでいきますが、私としては、「搭載機器を一つ一つ」みられることと、対策を練る段階で、それぞれの機器の仕組みや機能を知ることができて、とても勉強になったと思っています。

対策と測定を繰り返すEMCですが、いくつかのノイズは残ってしまいます。観測データをみると明らかに、ノイズとみられるスペクトルが現れています。中には、宇宙に行ってからみつかるノイズもあります。このようなノイズは結局、原因はわからないまま共存、ということになります。1992年のGEOTAILから本格的に始まった科学衛星EMCですが、それ以後の衛星で繰り返し対策や設計方針の改訂が行われ、「あらせ」ではEMC試験で発見されるノイズはかなり減ったと思います。EMC技術は衛星に限ったものではなく奥が深いです。科学衛星においても今後ますます技術的に進歩していくのではないかと期待しているところです。