「あらせ」搭載のプラズマ波動・電場観測器(PWE)は、宇宙空間の電磁場の振動(波)を捉え、観測結果を地上伝送します。PWEは常時、毎秒約6 メガビット(6 × 106 個)のデータを生成しており、これをさばくために2 つの専用CPU上で計14個の「アプリ」が、相互連携しながら働いています。動画アプリでおなじみのデータ圧縮や、ドライブレコーダーのように大振幅の波を検知して前後の時刻のデータを詳細記録するトリガ機能など種々の機能が搭載され、スマホアプリと同様、衛星打上げ後もアップデートを重ねてPWEは進化しました。

観測領域の放射線環境は非常に厳しく、CPUとPWE各コンポーネント間の通信ラインのリンク切れやメモリの1 bitエラー等が頻発し、運用初期は深夜でも携帯電話に緊急連絡が来ることが茶飯事でした。PWE班は主要メンバーが金沢・仙台・京都・名古屋・富山など各地に分散し、即座に相模原に駆け付けられないため、宇宙研とWeb会議ツールで音声・映像を共有しつつ、復帰手順を打つ臨時運用をたびたび実施させてもらいました。

PWEの観測データは、常時取得する通常データと、衛星上のデータレコーダーにいったん蓄積し、選別したデータだけを地上に下ろすバーストデータがあります。バーストデータは、毎週のWeb会議で、先行して地上伝送した通常データを1週間前までさかのぼって確認し、興味深い観測イベントを厳選してから次週に地上伝送します。海外出張を含め、メンバーが世界中のどこにいても開催する毎週のWeb会議が多くの科学成果に結びつきました。

新型コロナ感染症拡大のさなかも、「あらせ」が変わりなく運用できるのは、このように当初から積極的にデジタル技術を採用してきた賜物でしょう。とはいえ、宇宙研に何日も引きこもって行った動作検証試験、打上げ後の機器立上げ・アンテナ伸展など、声をかけあって手順を進めた日々が懐かしく思い出されます。作業終了後に、みんなで成功を分かち合うあの雰囲気は、やはり対面でなければ味わえません。コロナ禍が早く収束し、「あらせ」打上げ6周年をみんなで盛大にお祝いしたいと心から願っております。