プラズマ粒子で満たされた宇宙空間には、さまざまなプラズマ波動が存在しています。地球の周辺でも、それらの波動は励起・減衰・変調を通じて周囲のプラズマ粒子と互いに影響を及ぼし合い、エネルギーの授受を行っています。この記事では、「あらせ」で観測されたホイッスラー波動と磁気圏電子の相互作用の様子を紹介します。

ホイッスラー波動は、磁気圏の磁気赤道面付近で頻繁に観測される非常に強い放射強度を持った電磁波で、サイクロトロン共鳴により電子を加速したり、ピッチ角(粒子の速度と磁場のなす角度)を変えたりすることにより、放射線帯電子の形成やオーロラの発光という惑星磁気圏での特徴的な現象に直接的に関わっています。今回「あらせ」により、ホイッスラー波動と電子の相互作用が発生しているエネルギー帯の同定や、波動による電子分布の変化、ホイッスラー波動強度の変調が観測され、波動粒子相互作用でまさに地球電離圏に落ちていく電子のエネルギーや波動強度との関係が明らかになりました。これは、波動粒子相互作用という微視的な物理過程が、磁気圏夜側でのプラズマ注入から電離圏への電子降り込みという大局的な一連の現象にどのように埋め込まれているのかを理解するための貴重な直接観測です。

図(a)は磁気赤道面近傍で観測された磁力線に平行方向の電子エネルギー分布です。23 : 40頃から粒子インジェクションが発生して高いフラックスの電子が観測されています。図(b)は波動の磁場成分の放射強度をホイッスラー波の共鳴エネルギーで表示していますが、インジェクションと呼応してインジェクション電子と対応する共鳴エネルギーにホイッスラー波動が検出されていることが分かります。これらの電子は磁場に垂直方向のフラックスが卓越する非等方性を持っていることも同時に観測されていて、ホイッスラー波の励起が起きる条件を満たしています。

両者の関係を調べるため、平行方向の電子フラックスの各エネルギーでの時間変化と、ホイッスラー波の放射強度の時間変化の間で相互相関係数を計算したデータを図(c)で示しています。正・負の相関係数をそれぞれ赤・青で示し、無相関については白で表されています。このデータをみると、強い波動が観測されている時間帯に電子フラックスに対する正相関があり、それらの相関は波動の共鳴エネルギーとよく一致しています。これは観測場所で電子と波動がまさに共鳴していることを示しています。また、図示されていないものの、磁場に垂直方向の低エネルギー電子(約数百電子ボルト以下)フラックスと波動強度にも正の相関がみられることから、低エネルギー電子の時間的な増加がホイッスラー波動の励起を促し、その結果としてより高いエネルギーである共鳴エネルギー帯の電子を変調していると推定できます。

それでは、その電子分布の変調とはどのようなものでしょうか。図(d)では、磁場に沿って動く(ピッチ角が0度から11 . 25度の間の)電子フラックスの、準平行方向(ピッチ角が11 . 25 度から33 . 75 度)のフラックスとの比を作図しています。ホイッスラー波動が観測されていない時間帯は、青い色で示されているとおりフラックス比が1よりも小さく、強い波動が観測されるとその比が1に近づくという関係が非常に綺麗に観測から示されました。これは、もともとの電子分布が磁力線方向に少し「凹んで」いる形をしていて、強い波動が発生するとその凹みが電子で埋まることに対応しています。これは電子がホイッスラー波動と共鳴することにより、ピッチ角散乱を受けて共鳴電子が磁力線方向へ向きを変えていると解釈できます。また、ピッチ角散乱により一部の電子がロスコーンと呼ばれる非常に小さいピッチ角を持つようになることも同時に観測されており、この観測が行われた磁力線の根元にあたる地球電離圏では、まさに「あらせ」で観測された電子が引き起こしたオーロラが光っていたと考えられます。

ここでは、数百電子ボルト以下の電子と波動、また波動と10キロ電子ボルトにせまる電子との詳細な関係を「あらせ」の観測データから示してきました。「あらせ」は、基本的に途切れることなく常にすべての観測器が観測を行っているため、ここで示したように、電磁場波動とプラズマ粒子の非常に詳細な描像を磁気圏南半球から赤道を通過して北半球側に至る2時間近い時間の間観測することができました。「あらせ」の良質なデータの蓄積が今後とも磁気圏の研究を推し進めることになると期待しています。

Figure 1

「あらせ」で観測されたホイスラー波動と電子のデータ。
図(a): 磁場に平行・半並行方向(ピッチ角が0度から11.25度)の電子エネルギーの分布。図(b): ホイッスラー波動と電子の共鳴エネルギーで示したプラズマ波動の磁場成分。図(c): 平行な電子フラックスとホイッスラー波動強度との間の相互相関係数。図(d): 平行方向の準平行方向に対する電子フラックスの比率。