赤道直下の移設作業

オランダでの試験が終わり、ついに探査機は射場へ移動となります。場所は仏領ギアナにあるCSG(Centre SpatialGuyanais)。MMO(「みお」)の地上システムに係る作業として、私は2018年5月、8月、9月の3回CSGへ出張しました。現地では空港、ホテル、CSG以外は英語があまり通じない事(現地はフランス語)の他は特に不自由なく過ごせました。現地のレストランでは生肉料理であるタルタルを知らずに注文し、初めて食べました。生牛挽肉の上に卵の黄身が乗っており、自分で好きな味付けをして食べるのですが、南米ということで生水などに気を付けるよう注意していたので、少し勇気が必要でした。食べてみると美味しく、その後タルタルを見つけると注文するようになりました。幸い、現地では私も含め、誰もおなかを壊すような事がなく、無事に滞在期間を終える事ができました。

さて、現地作業について。探査機本体は後述する専用機であるアントノフで空輸されますが、それ以外の装置類は船便で衛星より少し前に現地に到着します。我々は木箱で梱包された器材を開梱し、システムを構築するのですが、そこは赤道直下のギアナです。開梱作業は蒸し風呂のような暑さと湿度で、時折来るスコールに注意しながら、皆汗だくでの作業になりました。開梱、搬入後は装置の据付調整や日本とのデータ通信確認を行います。現地での電源配線工事や通信確認は現地の専門スタッフと調整しながら行いました。日本との通信に使用しているISDN回線がサービス終了していたというトラブルもあり、その原因が分かるまで何度も現地スタッフと調査をすることになりました。結果としてはうまく通信出来るように調整ができたのですが、国際ミッションならではの難しさを痛感しました。その後日本のスタッフや現地スタッフの協力で無事システム構築も完了、「みお」の搬入も終わり、打上げに向けた最終確認の準備が整いました。

この滞在を経て、国際協力ミッションの楽しさと難しさを覚え、好きなフランス料理が1つできた事が大きな収穫でした。

地上システム・運用担当 太田 方之(おおた まさゆき)

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(左)初見時に衝撃的だったタルタル (右)探査機移設作業を無事完了した後の集合写真

 

アントノフ

2018年5月、MMO(「みお」)のオランダのヨーロッパ宇宙技術研究センター(ESTEC)から南米仏領ギアナの射場(CSG)への輸送に立ち会いました。熱制御系担当として「みお」が輸送中に所定の環境に維持されていることを確認し、必要に応じて対処するのが任務です。オランダのスキポール空港から南米仏領ギアナのカイエンヌ空港まではロシアのアントノフという超巨大輸送機で輸送されました。

アントノフは衛星の輸送によく使われている世界最大級の貨物機です。胴体前後に大きな貨物扉を持ち、2基のクレーンが貨物室に装備されていて、貨物の搬出入がスムーズにできます。貨物室の上、操縦室の後ろにクルーの個室と顧客のための座席スペースがあります。普通の旅客機と同じ座席ですが、「いいやつを選んで座ってくれ」と言われました。座席のところに窓はなく外の様子はわかりません。飛行中貨物室はある程度与圧され空調されていますが、人が耐えられる気圧・温度ではなく飛行中のチェックはできません。地上でだけ衛星コンテナにアクセスできました。

ESAの電気推進モジュール(MTM)と混載でしたので、ESAから1名と衛星試験を請け負っているTAS-I社から3名が、私の他に搭乗しました。途中サンタ・マリア島に給油と時間調整のために寄港しました。衛星コンテナと積荷の健全性を確認後、ESAとTAS-Iの人たちと連れ立って空港の外のお店に行き、軽い食事をとりました。お店には卓球台やビリヤード台などがあり、彼らと一緒に遊んだのは良い思い出です。アントノフに戻り、衛星コンテナの健全性確認後、カイエンヌ空港に向けて出発しました。

アントノフも南米ギアナも初体験でとても心配しましたが、結果として問題なく輸送できてほっとしました。

...今回で一旦連載は中断になります。まだまだお伝えしたいことがたくさんあります。しばらくしたら再開したいと思います。どうぞご期待ください!

BepiColombo計画 日本側プロジェクトマネージャ 小川 博之(おがわ ひろゆき)

写真

アントノフ(Copyright: ESA-M.Cowan)

【 ISASニュース 2020年10月号(No.475) 掲載】