「みお」には水星磁気圏の観測を行う複数の観測装置が搭載されているが、MPPE (Mercury Plasma Particle Experiment)は、電子、イオン、高速中性粒子の計測を行う観測装置である。MPPEは計7台のアナライザーから成る観測装置で、日本、欧州、米国、台湾、中国、ロシアなど世界中から100名を超える研究者が集まって開発を行った。7台のフライトアナライザーを写真に示し、各アナライザーの名称と観測対象を表に示す。MIAとHEP-ion, HEP-eleの3つのアナライザーは日本国内で開発したが、MEA-1とMEA-2はフランスのグループが開発を担当し、MSAとENAは複数の国が力を合わせて開発を行った。MSAはアナライザー部分、高圧電源とCPU、イオンの検出器と衛星とのインターフェース部をそれぞれフランス、ドイツ、日本のグループが設計・製造して日本で組み上げた。一方ENAはスウェーデンとスイス、日本のグループがアナライザー部分・高圧電源、検出器を含む信号検出部と衛星とのインターフェース部をそれぞれ開発して作り上げた。MPPEアナライザーの設計を始めた当初は、日本と欧州のメンバーが集まって会合を開く度に新しいアイデアが提案され、なかなか装置の設計が固まらないという悩みはあったものの、日本と欧州のそれぞれの得意技と特徴を活かして観測装置を一緒になって作り上げることは大変楽しいものであり、また技術的にも多くの進歩があった。

MPPEの7台のフライトアナライザー

MPPEの7台のフライトアナライザー

MPPEの7台のアナライザーの名称と観測対象

MPPEの7台のアナライザーの名称と観測対象

MPPEの主な観測目的としては、1)太陽からの距離が0 . 3 AU- 0 . 47 AUと近い水星において地球付近とは異なるパラメータを持つ太陽風の観測を行うこと、2)地球と同様に固有の磁場があり磁気圏もあるものの、地球より磁場の強度が弱くてサイズも小さく、地球より時間的な変動が激しい水星磁気圏の構造とその変動のメカニズムを明らかにすること、3)太陽風と水星表面との相互作用が水星周辺の希薄な大気・電離大気をどのようにして作り出し、それらがどのようにして水星磁気圏の構造や変動に影響を及ぼすのかを明らかにすること、などをあげることができる。図は、MPPEの観測目的を示しており、6種類7台のアナライザーで同時に観測を行うことで、未解決の問題が山積している水星磁気圏の完全な理解を目指す。

MPPEの観測目的

MPPEの観測目的

打上げ後の2018年11月にMPPEアナライザーの低圧部の初期チェックを完了し、2019年6月中旬から7月上旬、8月下旬に高圧部の初期チェックを実施して、現在MPPEのほとんどのアナライザーは観測を開始できる状態にある。ただ、水星到着までの間は、「みお」の周りのサーマルシールドがMPPEの視野の大部分を遮っているため、本格的な観測の開始は水星到着を待たなくてはならない。MPPEの開発を始めてからもう15年が経ったが、MPPEの設立当時のメンバーのうち何名かはすでに引退し、若い世代にその役割が受け継がれている。まだ水星への到着まで6年以上かかるため、若い優秀な研究者をメンバーに加えつつ、水星磁気圏における観測の準備を進めているところである。

MPPE 主任研究者 齋藤 義文(さいとう よしふみ)

【 ISASニュース 2019年9月号(No.462) 掲載】