2018年10月20日に打ち上げられた、水星磁気圏探査機「みお」を載せたBepiColombo探査機は約1年半ぶりに再び地球に接近し、最初で最後となる地球スイングバイを実施しました。最接近は2020年4月10日13時24分57秒(日本時間)で、南大西洋上空の高度12,689㎞を通過しました。今回の地球スイングバイでは地球の重力を利用して約5㎞/sの減速を行いました。軌道力学チームによる詳細な解析の結果、スイングバイによって目標通りの軌道上を順調に飛行中であることが確認されました。探査機の状態は正常で、計画通りに進行しています。今回の地球スイングバイを皮切りに「みお」は金星で2回、水星で6回、計9回のスイングバイ(惑星探査機として史上最多)を実施予定です。2025年12月に予定される水星到着までの総航行距離は(太陽中心座標系で)約88億㎞で、今回の地球スイングバイまでに約14億㎞を走破しています。
スイングバイの前後ではBepiColombo探査機に搭載される多くの装置で観測を行いました。電気推進モジュール(Mercury Transfer Module: MTM)に搭載されたモニタカメラ(MCAM)では美しい地球の姿が何度も撮影されました(表紙参照)。また水星表面探査機(Mercury Planetary Orbiter: MPO)に搭載された赤外線(MERTIS)・紫外線観測装置(PHEBUS)は月の観測を実施し、磁力計(MAG)やプラズマ粒子観測装置(SERENA)は地球磁気圏の観測などを行いました。「みお」に搭載されたプラズマ粒子観測装置(MPPE)、磁力計(MGF)、プラズマ波動観測装置(PWI)も地球磁気圏の観測を実施しました。水星到着まで「みお」は太陽光シールドに囲まれ観測視野が限られるほか、磁力計マスト及びワイヤアンテナが収納状態のままであるなど観測制約があります。それでも「みお」にとって、地球磁気圏の通過は観測装置の性能を確認する絶好のチャンスとなります。特にイオン粒子の観測は普段の太陽風中ではシールドに遮蔽されて困難であるため、惑星スイングバイはその腕試しをする限られた機会です。実際に「みお」に搭載されたMPPEの低エネルギー電子観測器(MEA)で得られた太陽風および磁気圏の観測結果を図1に示します。2020年4月9日22時~10日1時頃(UTC)の観測結果で、太陽風中から磁気圏へと入っていく様子がはっきり捉えられています。
一方、地球上では世界各地の天文台、科学館、アマチュア天文家らが最初で最後のBepiColombo探査機の姿を捉えようと望遠鏡を一斉に夜空へ向けました。日本でも日本惑星協会、日本公開天文台協会、およびJAXAの呼びかけにより全国各地で「はやぶさ2」の地球スイングバイ時と同様の観測キャンペーンが展開されました。各地からは観測結果が続々と発信されています(図2)。またESAが主催する地球スイングバイの撮影コンテストも行われました。
BepiColombo探査機は今後、2020年10月15日に予定される金星スイングバイに向かうほか、惑星間空間の航行中にNASAのParker Solar ProbeやESAのSolar Orbiterなどと協力して太陽風観測などを行う予定です。詳細は随時プロジェクトページやSNS等で発信する予定ですので、引き続き応援をよろしくお願いします。
BepiColomboプロジェクトサイエンティスト 村上 豪(むらかみ ごう)
【 ISASニュース 2020年5月号(No.470) 掲載】