オーロラ爆発のエネルギー源は太陽風です。どのように太陽風のエネルギーが地球磁気圏に取り込まれるのか、そのプロセスの理解のために多数の衛星が打ち上げられてきました。長谷川洋、北村成寿(JAXA宇宙科学研究所)が率いる研究チームは、太陽風のエネルギーの地球磁気圏への取り込みが、地球磁気圏の外縁部の約7万kmの広範囲にわたって、少なくとも5時間以上継続することを明らかにしました。これはオーロラ爆発に十分なエネルギーの取り込みが磁気リコネクションによって起きていることを示しています。

太陽風のエネルギーを地球磁気圏へ取り込む様子を示したイメージズ

地球を取り囲む宇宙空間は穏やかな世界ではありません。たとえば太陽風(プラズマの流れ)が地球に吹き付けています。太陽風は生命にとっては有害な"風"です。地球の磁気圏はこの有害な"風"から私たちを守ってくれているのです。

地球に吹き付ける高速のプラズマは地球の磁気圏と反応し、いろいろな現象を巻き起こします。地球磁気圏と太陽風の相互作用で起こる現象の一つにオーロラ爆発があります。

オーロラが起きるプロセスは大まかに次のように考えられています。

(1)太陽風のエネルギーが磁気圏に入り込む
(2)磁気圏尾部にエネルギーがため込まれる
(3)エネルギーが短時間で一気に解き放たれ、プラズマ粒子のエネルギーとなり磁力線に沿って地球の極地方へ進み、オーロラとなる。

太陽風エネルギーの取り込みや解放といった過程に重要な役割を果たすのが磁気リコネクション(磁力線のつなぎかえ)です。磁気リコネクションによって、オーロラや磁気嵐が起こると考えられており、この物理過程の理解は地球周辺の宇宙空間で起こる現象を理解する上で鍵となります。

この研究で調べたのは(1)の過程です。研究チームは7月24日で運用24年を迎える日米共同の磁気圏尾部観測衛星「GEOTAIL」と、NASAの磁気圏編隊観測衛星「Magnetospheric Multiscale(MMS)」のデータを解析しました。

データは2015年10月と11月に取得された、磁気リコネクションによって生成されるプラズマのジェットに関するデータです。GEOTAILとMMSはプラズマのジェットを5時間にわたり観測しました。

複数箇所で磁気リコネクション(磁力線のつなぎかえ)が起きると、磁力線がらせん状の構造になるときがあります。従来の考え方ではこの磁気ロープが消えることはなく、プラズマのジェットによって巨大化すると考えられていました。今回の観測で、磁気ロープの中には消滅するものがあることがわかりました。このことは磁気リコネクションが起これば必ず太陽風のエネルギーが流入するわけではないということ、つまり、磁気ロープによって太陽風エネルギー流入が阻害される場合があることを示唆しています。

一方、観測中、磁気リコネクションは継続的に起こっており、少なくとも磁気リコネクションは5時間以上継続して起こっていることがわかりました。

同時に、衛星の軌道も考慮すると、磁気リコネクションは約7万kmの広範囲にわたっていることがわかりました。約7万kmとは地球の赤道半径の10倍以上にあたる広さです。

そして磁気リコネクションの発生場所が冬半球側にずれていることもわかりました。磁気リコネクションの発生場所が冬半球側にずれると、磁気リコネクションが遅くなり、太陽風エネルギーの流入効率が悪くなることが予測されています。オーロラの活動度は夏冬期に低くなることが知られています。このことと、磁気リコネクションの発生場所とが関係しているのかどうか、今後の研究が期待されます。

JAXAは半年以内にERG衛星を打ち上げ、磁気圏尾部の観測を開始する予定です。GEOAIL衛星とERG衛星の共同観測により、地球周辺の宇宙空間で起こっている現象の理解が進むと期待されています。


論文名

題目:Decay of mesoscale flux transfer events during quasi-continuous spatially extended reconnection at the magnetopause

著者:長谷川洋(JAXA宇宙科学研究所)、北村成寿(JAXA宇宙科学研究所)、齋藤義文(JAXA宇宙科学研究所)、など

掲載誌:米国地球物理学連合誌:Geophysical Research Letters(オンライン)に2016年5月21日に掲載。

DOI: 10.1002/2016GL069225

題目:Shift of the magnetopause reconnection line to the winter hemisphere under southward IMF conditions: Geotail and MMS observations

著者:北村成寿(JAXA宇宙科学研究所)、長谷川洋(JAXA宇宙科学研究所)、齋藤義文(JAXA宇宙科学研究所)、など

掲載誌:米国地球物理学連合誌:Geophysical Research Letters(オンライン)に2016年6月6日に掲載。

DOI: 10.1002/2016GL069095