地球磁気圏と太陽風の境界を示したシミュレーション

地球磁気圏と太陽風の境界を示したシミュレーション。色はプラズマ密度を表しており、青から赤へ色が変わるにつれてプラズマの密度が高い。"竜巻"が発生して、プラズマの密度が低い領域とより高い領域が混合する様子がわかる。 (c) IWF/Takuma Nakamura

オーストリア、日本、アメリカなどの研究者からなる国際研究チームは、NASAのMMS (Magnetospheric Multiscale) 衛星による観測データと計算機実験を組み合わせ、地球磁気圏の外縁で起こっている太陽風と地球磁気圏の相互作用の過程を初めて詳しく調べることに成功しました。この研究から、太陽からの荷電粒子が地球磁気圏にぶつかると境界面がかき乱され、ミクロな渦が発生し、境界面を攪拌することで太陽からの荷電粒子が地球の磁気圏内に入り込む様子が明らかになりました。研究成果はどのように太陽風が地球の磁気圏に入り込むのかを理解するための鍵となります。

この研究成果は、2017年11月17日、イギリスの科学誌Nature Communicationsに掲載されました。

惑星間空間は、太陽からの高エネルギーの荷電粒子が吹き付ける危険な場所です。幸いにも地球には磁気圏があり、太陽から吹き付ける高エネルギー荷電粒子の流れ(太陽風)のバリアになっています。

しかし磁気圏のバリアも完璧ではありません。太陽風の一部が地球磁気圏内に入り込むときがあります。たとえば、北極や南極でオーロラ現象がおこるのは地球の磁気圏内部に太陽風の一部が入り込むためです。また、宇宙嵐を引き起こして、静止衛星などに障害が発生したり、電離圏が乱れるとGPSによる測位誤差が増えたりするなど、大規模な宇宙嵐は人々の生活にも影響を与えることがあります。宇宙空間での活動が私たちの生活に欠かせなくなった現代では、こうしたジオスペースの現象が私たちにどのような影響を与え、どのような備えをすべきかを知るためにも、太陽活動やジオスペースの観測を行い、宇宙嵐をはじめとするジオスペースに起こる現象をより詳しく調べ、理解していくことが必要とされています。

磁気圏の内部に太陽風やそのエネルギーが運び込まれるのは、磁気リコネクションと呼ばれる磁力線のつなぎかえ現象がおきているからだと考えられています。しかし、磁気リコネクションがどのように起こり、太陽風によって運ばれた荷電粒子が地球の磁気圏に、どのように、どのくらい入り込むのか、はまだ理解されていません。

中村琢磨氏(オーストラリア科学アカデミー グラーツ宇宙科学研究所)と長谷川洋(JAXA宇宙科学研究所)率いる研究チームは、NASAのMMS (Magnetospheric Multiscale) による観測データと米国オークリッジ国立研究所の大型計算機Titanを用いた計算機実験を組み合わせ、地球磁気圏の外縁で起こっている物理過程を始めて詳しく調べることに成功しました。

MMSは、どのように磁気リコネクションが起こるのかを解明することも目的としたNASAのミッションです。日本の研究グループも、MMS衛星に搭載されたイオン観測装置の設計や開発に関わり、ミッションに貢献しています。MMSは同型の4機の衛星がピラミッド型のフォーメーションをとることで、磁場や圧力の勾配を測定することができます。そして、観測の領域と目的に合わせて衛星間距離を7〜400kmの範囲で変えることができます。2015年3月から2017年1月までは遠地点を地球半径の12倍にとることによって、昼側の磁気圏境界を主な観測領域としていました。2017年2月以降は遠地点を地球の25倍に変更し、磁気圏尾部も観測領域としています。本研究では、MMSがリコネクション・ジェットを横切った2015年9月8日のデータを解析し、さらに計算機シミュレーションによりこの観測イベントを再現することで現象を総合的に理解することに成功しました。

磁気圏の内側では、電子やイオンといった荷電粒子の密度が磁気圏の外側よりもかなり低い状態が保たれます。強い太陽風が地球磁気圏に吹き付け、密度の違う領域が違う速さで動くと境界面が不安定になり、巨大な渦ができます。かき乱された境界面では磁場構造が瞬く間に不安定となり、強力な磁気リコネクションが誘発されることで、漏斗(じょうご)の形をした磁場構造が急速に回転しているかのような小さな"竜巻"が無数に発生します。この竜巻はやがて巨大な渦構造そのものを壊し、太陽からやってきた荷電粒子を地球の磁気圏に入り込ませる役割を担うのです。

今回の研究結果で、"竜巻"が関与する磁気リコネクションによって太陽からの荷電粒子が地球磁気圏に入り込む量は、これまで予測されてきた渦による輸送量よりも約10倍多いことが示されました。「我々はこれらの小さな"竜巻"がとても巧妙に荷電粒子を地球磁気圏内部に運び込むことを発見しました。今回の研究成果は、どのように太陽風が地球の磁気圏に入り込み、衛星の通信を邪魔するのかを理解するために鍵となる結果なのです」と中村氏は語っています。

発表媒体

雑誌名:Nature Communications オンライン掲載 2017.11.17
論文タイトル:Turbulent mass transfer caused by vortex induced reconnection in collisionless magnetospheric plasmas
著者: T. K. M. Nakamura, H. Hasegawa, W. Daughton, S. Eriksson, W. Y. Li & R. Nakamura
DOI番号:10.1038/s41467-017-01579-0