本研究のイメージ図

ヴァン・アレン帯の高エネルギー電子は、地球の磁場に捕捉されているために、通常は地球の大気にはほとんど落ちてきません。しかし、ジオスペースにイオン波と呼ばれるプラズマの波が発生すると、高エネルギー電子の運動が乱されてしまい、地球に向かってふり落とされると考えられています。このことから、ヴァン・アレン帯の消失のある部分は、イオン波によって引き起こされていると考えれています。「あらせ」のプラズマ波動・電場観測器は、観測開始から約1年半の間に、約400例のイオン波を観測することに成功しました。これらの観測データを精密に解析することによって、広いジオスペースのどこでイオン波が発生しているのか、その空間分布を明らかにすることができました。「あらせ」は広いジオスペースをくまなく観測することのできる軌道設計がなされていたことから、これまではわかっていなかった立体的なイオン波の発生分布を世界ではじめて得ることができたのです。

図1「あらせ」が観測したイオン波の周波数スペクトル(周波数ごとの波の強さ)の時間変化【A】

図1「あらせ」が観測したイオン波の周波数スペクトル(周波数ごとの波の強さ)の時間変化【B】

図1「あらせ」が観測したイオン波の周波数スペクトル(周波数ごとの波の強さ)の時間変化。(横軸が時間、縦軸が周波数、対応する時刻・周波数のプラズマの波の強さが色であらわされています。)【A】は微細な周波数変動を伴うイオン波のもので"しましま"が見えます。【B】は微細な周波数変動を伴わないイオン波のもので"のっぺり"しています。

イオン波の発生の種となるジオスペースのイオンは、ジオスペースの一部に偏って存在すると考えられています。「あらせ」の観測から得られたイオン波の空間分布にも特徴的な偏りがあることが分かり、この偏りは、理論的なジオスペースのイオンの分布と整合的でした。また、「あらせ」による高感度・高分解能観測によって、イオン波は【A】微細な周波数変動を伴うイオン波と【B】微細な周波数変動を伴わないイオン波の2つのタイプに分類できることを明らかにしました。図1は【A】【B】ともにプラズマの波の周波数スペクトル(周波数ごとの波の強さ)の時間変化が色であらわされています。【A】のイオン波ではその時間-周波数分布に"しましま模様"が顕著に見えるのに対して、【B】のイオン波はその時間-周波数分布は"のっぺり"しています。そして、2つのタイプのイオン波は、その空間分布が大きく異なることを明らかになりました。図2は2つのタイプのイオン波の立体的な分布をポンチ絵で示したものです。この特徴の違いから、【A】のイオン波と【B】のイオン波とでは、ヴァン・アレン帯の高エネルギー粒子の消失に対する影響が異なることが予想されます。

図2【A】【B】 2つのタイプのイオン波の立体的な空間分布をあらわしたポンチ絵

図2:【A】【B】 2つのタイプのイオン波の立体的な空間分布をあらわしたポンチ絵

これまでの観測によって部分的に報告されてきたイオン波の空間分布は、「あらせ」の観測結果によってはじめて結びつけられて、広いジオスペースの全体におけるイオン波の空間分布を統一的に見ることができるようになりました。これは、「あらせ」の観測装置が質の高い観測データを継続して取得し続けたことによる成果です。「あらせ」によって得られたイオン波の空間分布は、ヴァン・アレン帯の消失が「いつ・どこで・何をきっかけに」発生しているかを解明するための重要な手がかりとなるでしょう。

(松田 昇也、篠原 育、三好 由純)