本研究イメージ図

宇宙では高いエネルギーの電子がしばしば観測されますが、どのように電子が高いエネルギーを獲得するのか、については大きな問題になっています。ジオスペースでは「コーラス波が電子にエネルギーを渡すことによって、電子のエネルギーが上昇し、高エネルギー電子が増加する」というプロセスが働いている可能性が指摘されていました。そして、このコーラス波と電子の間のエネルギーのやり取りはとても小さく、ジオスペースのエネルギーの高い電子を生成するためには、数時間から1日程度の時間スケールが必要と考えられていました(ゆっくりとした加速)。しかし、「あらせ」は、コーラス波の発生に伴って、エネルギーの高い電子がこれまで考えられてきた時間スケールに比べてずっと短い間に大きなエネルギーを得ていることを発見しました。「あらせ」の観測は「コーラスの発生から30秒以内に高いエネルギーの電子の数が増加した」ことを示しているのです。

図1「あらせ」が観測した、(a) コーラス波の周波数スペクトル(周波数ごとの波の強さ)の時間変化

図1「あらせ」が観測した、(a) コーラス波の周波数スペクトル(周波数ごとの波の強さ)の時間変化(横軸が時間、縦軸が周波数、時間と周波数に対応するコーラス波の強さが色であらわされています。)、(b) コーラス波出現前の電子のエネルギー分布、(c) コーラス波出現中の電子のエネルギー分布。((b)と(c)はともに、横軸が磁場と粒子の到来方向のなす角度:ピッチ角、縦軸が電子のエネルギー、ピッチ角とエネルギーに対応する電子の数が色であらわされています。)

図1の一番上のパネル(a)は、あらせ衛星で観測されたコーラス波のデータで、強いコーラス波が30秒程度に渡って観測されていたことを示しています。コーラス波が観測される前と後の電子のエネルギーの分布をパネル(b)と(c)に示しています。パネル(c)の黒い破線で囲まれた領域では -まるで鬼の角のように見えますが- 、エネルギーの高い電子の数が増加していることがわかります。コーラス波と電子がエネルギーのやり取りができる範囲は理論的に予測することができるので、パネル(b)と(c)の青の実線・破線で囲んで示しました。エネルギーの高い電子の数が増えている範囲は、この予測に対応していることから、エネルギーが増えた電子は、確かにコーラス波からエネルギーをもらったと考えることができます。図2はこの様子をポンチ絵で表したものです。この観測結果は、「ゆっくりとした加速」では説明することが難しいので、短い時間の間に電子がコーラス波から大きなエネルギーを効率よく獲得できる、これまでの考えとは異なる新たな加速メカニズムが働いているのだと考えられます。

図2 コーラス波が短時間でジオスペースの電子を高エネルギーまで加速するイメージ図

図2 コーラス波が短時間でジオスペースの電子を高エネルギーまで加速するイメージ図。

実は、このような「急速な電子加速」は「あらせ」によって頻繁に観測されています。しかし、今回明らかになった「急速な電子加速」は、これまでの高エネルギー電子の増加プロセスとしては考慮されていなかったことから、ジオスペースにおける高エネルギー電子の成因を見直すとともに、ヴァン・アレン帯の形成の新しいシナリオを検討することが迫られています。

(栗田 怜、篠原 育、三好 由純)