ジオスペース探査衛星「あらせ」(ERG衛星)は、ジオスペース(地球周辺の宇宙空間)における高エネルギー電子の変動過程を理解することを目的とした科学衛星です。この目的を達成するため、「あらせ」衛星はヴァン・アレン帯の中心部で、電子がエネルギーを得る過程をその場で詳細に観測できるように設計されました。

例えば、荷電粒子がエネルギーを獲得するのは極めて短時間で起こるため、荷電粒子がエネルギーを獲得するプロセスを調べるためには、高い時間分解能で様々なエネルギーを持つ荷電粒子の密度、電場・磁場の変動を捉える必要があります。短時間で起こる電場・磁場・荷電粒子の振る舞いを測定し、厳しい放射線環境での観測に最適化された「あらせ」衛星は、2016年12月20日内之浦宇宙空間観測所からイプシロンロケット2号機で打ち上げられました。軌道投入後の初期チェックアウト後、2017年3月末には定常運用を開始し、2019年1月現在も順調に観測を続けています。「あらせ」衛星には、台湾の研究所が製作した観測機器を含む8つのセンサーが搭載されています。これらの観測機器、国際共同地上観測網、シミュレーションを駆使し、ジオスペースで起こる変動の大局的な理解が進んでいます。

コーラス波がつくりだす脈動オーロラの高速な明滅

太陽からは、常にプラズマが惑星間空間に流れ出しています。このプラズマの流れ(太陽風)は、太陽の磁場を伴って惑星間空間に広がり、ジオスペース(地球周辺の宇宙空間)にも到達します。そして、地球磁気圏を変動させたり、地球の超高層大気へ内部へ荷電粒子を降り込ませオーロラを発光させたりと、ジオスペースや地球大気に大きな影響を及ぼします。また、高エネルギー荷電粒子は人工衛星などの機能障害の原因ともなり得ます。

衛星が、プラズマや電場・磁場をその場で観測できるのはジオスペースの中で「点」と言っていいほど狭い領域だけです。また、衛星は地球を周回しながら観測するため、プラズマや電場・磁場の時間変動も、同じ場所をモニターし続けることはできません。あらせプロジェクトでは、地上でのオーロラ観測と「あらせ」衛星の同時観測を実現して、上述の問題を克服しました。

衛星でジオスペースの荷電粒子や電場・磁場の変動を測定し、同時にオーロラ発光を地上から観測することで、両者が対応するか調べるのです。もし、オーロラの発生につながる波動がジオスペースで観測され、それがオーロラ発光と対応すれば、今度は逆に、オーロラ発光を観測することで、ジオスペースのどこで、どのくらいの範囲にわたって、どのくらいの強さのコーラス波が発生し、継続時間はどのくらいだったのかを知ることができれば、高エネルギーの荷電粒子がどこで、どのくらい増加するのかを推測することができます。

本研究イメージ図

コーラス波に注目するのは、コーラス波がジオスペースの高エネルギー荷電粒子の増減に関係しているからです。これまで、電子がエネルギーを獲得するのは数時間から数日のタイムスケールと考えられてきました。つまり、「ゆっくり、じわじわと」電子はエネルギーを獲得すると考えられてきたのです。しかし、「あらせ」の観測からこの考えは覆されました。

「あらせ」は、コーラス波が発生している最中にエネルギーの高い電子の数が増えていることを発見しました。すなわち、電子はコーラス波によって「ゆっくり、じわじわと」エネルギーを獲得するのではなく、コーラス波発生後、長く見積もっても数十秒以内にエネルギーを獲得することがわかりました。かなり短時間に電子がエネルギーを獲得しているという、従来の理論を覆す観測結果が得られました。「あらせ」による観測結果は、ジオスペースにおけるコーラス波と電子の相互作用の理論の見直しを迫っているかもしれません。

20190318B.jpg

その他にも「あらせ」によって、コーラス波のようにジオスペースの電子を地球大気へ輸送することができると考えられている静電波の観測や、宇宙嵐の始まりで起こるヴァン・アレン帯の消失を引き起こすイオン波の空間分布についても精密な観測データが取得されています。

「あらせ」の観測や地上観測網との協調観測によって、ジオスペースの大局的な電場・磁場の変動や荷電粒子の振る舞いが次々と明らかになりつつあるのです。

さて、これまでの「あらせ」の観測が行われたのは、第24太陽活動周期の活動下降期にあたります。この時期、太陽活動と地球磁気圏の相互作用によって、規模の異なる複数の宇宙嵐が発生し、ヴァン・アレン帯の変動が起こり、。これらの変化を「あらせ」は捉えることに成功しました。同時に、これらの宇宙嵐時に、「あらせ」を中心とした各国の衛星や地上観測と連携した国際的なジオスペース総合観測により、電磁波を介してジオスペースに分布する電子がエネルギーを獲得したり、失ったりする過程を明らかにすることができました。

太陽は、これから第24太陽活動周期の終盤を迎え、その後、第25太陽活動周期の活動上昇期に入ると予想されています。「あらせ」は今後も観測を続け、太陽活動が活発になる時期に地球が太陽からどのような影響を受けるのかを観測的に調べ、ジオスペースが太陽、太陽風に対してどのように応答するのかを理解することを目指します。

なお、2018年8月からは「あらせ」の観測データは世界の研究者に対して一般公開されています。公開された「あらせ」のデータから、今後は国内外の研究者による科学成果が拡大していくことが期待されています。

(画像クレジット: JAXA)

詳しい研究成果は、以下の記事をご覧ください。