気候も過ごしやすくなってきた4月下旬の2日間、大阪・関西万博で、宇宙科学研究所の国際協力について熱い議論が交わされました。
まずは、4月24日にポーランド館では「ポーランド・宇宙の日」が開催されました。
New Space Foundationによる科学討論会「教育における宇宙のインスピレーション」が開催され、宇宙科学研究所からは津田雄一副所長が登壇しました。
この討論会では、宇宙に関する知識や経験がどのように教育に活かされるかについて議論が交わされ、国際的な視点からの意見交換が行われました。
津田副所長は「私たちが子供の頃は宇宙飛行は遠い存在だったが、今では様々な情報が身近にある。しかしそれが逆に本質的な理解を妨げている側面がある(今や、ゲームやVRは現実よりもリアル!?)。宇宙飛行士の活動や宇宙科学探査ミッションは正しく効果的に人類の叡智の最前線のリアリティを伝えられる最良のコンテンツであり、青少年に「なぜ宇宙に行く必要があるのか?」や「宇宙に行くことで何が得られるのか?」といった問いを考えてもらう強力なきっかけになる。」と、これまでの自身のはやぶさ2のプロジェクトマネージャーとしての経験等から、宇宙教育の大切さを述べました。
また、ポーランド館の前に設けられたワークショップスペースでは、科学と芸術の融合をテーマに、天文学ワークショップ、星座探しのフィールドゲーム、コペルニクスと描く漫画ワークショップなどが開かれ、万博を訪れた多くの人々が足を止めて、宇宙への思いをはせていました。
ポーランドパビリオン代表のMarta Zielińska氏の歓迎を受ける津田副所長
宇宙教育の第一線で活躍する、日本とポーランドの研究者により次世代宇宙教育について活発な議論がなされました。
ディスカッションに参加する津田副所長
ポーランドパビリオンを見学する津田副所長。楽しそう。。。
翌日の4月25日には、スイス館で、「ベルン大学の日」が開催されました。スイス・ベルン大学と長年の関係を築いてきたことから、宇宙科学研究所からは藤本正樹所長が登壇しました。スイス人でESAの宇宙飛行士マルコ・ジーバー氏(リモート参加)とともに、「宇宙探査と人類の健康の前進:宇宙研究・医学・AIが形作る未来」をテーマにディスカッションを行いました。
冒頭、AIが将来の宇宙探査にどのように使われるのかについて、藤本所長は「打上げに先立って、地上においての機器の試験にAIは役立つと思う。しかし、実際の小惑星ミッション等では、チームが事前に多くの訓練を実施したことが重要だった。予期しない状況においても、柔軟で、想像的に対応できたのは人間の強みだと思う。将来探査でも人間の想像性は中心的な要素になるだろう」と我々人類の重要性を語りディスカッションがスタートしました。
会場では「AIを搭載したロボットが意識も持つとはどういうことなのか?」「AIが進化した今、人類が月や火星へ行く必要があるのか?」「AIによって、まるで火星表面に立っているような感覚を得ることができたら、自分の足で火星を探査したのと同じとみなされるのか?」といった興味深い議論が、来場者とともに活発に行われました。話題はAIの他にも、宇宙環境で行われた研究が、地上と軌道上の宇宙飛行士の健康、高齢化問題等にどう貢献するのか等にも及びました。
「私たちが宇宙を探査しているのは、結局のところ「自分たち自身についてもっと知るため」なのではないか」と、宇宙探査は、自分たち自身、ひいては地球そのものの存在を見つめなおすきっかけにつながっていると、強調しました。
日本の宇宙科学探査についてプレゼンする藤本所長
ディスカッションで宇宙探査の意義について熱く語る藤本所長
オードリー・フォアブルガー氏(ベルン大学 宇宙・惑星科学 准教授)から、スイスパビリオンの展示について説明を受ける藤本所長とディスカッション参加メンバー。スイスパビリオンには、ESAとJAXAのミッションのために開発された2台の高精度質量分析計の展示や、ESAのロゼッタミッションに搭載された装置のデータから得られた「彗星の香り」を体験することができます。
「彗星の香り」の展示は、スイスが開発して、ESAのロゼッタミッションに搭載されたROSINA機器から得られたデータに基づいています。チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の香りが科学的に再現されています。藤本所長の楽しそうな表情から香りを想像してみてください。そして、体験しに来てください!
スイスといったら、「ハイジ」。メルヘンな世界が似合わない宇宙研所長。
来る6月7日(土)には、スイスパビリオンにおいて、「月から彗星へ、宇宙をおさんぽ!~彗星づくりと月面歩行を体験しよう!宇宙研究者と一緒に学ぼう~(仮)」を、ベルン大学とJAXA宇宙科学研究所、国際宇宙探査センター、宇宙探査イノベーションハブと共同で開催します。ぜひ、会場までお越しください。(詳細は改めてお知らせします)
(2025/05/20)