2020年12月、小惑星探査機「はやぶさ2」は小惑星リュウグウから採取したサンプルを地球に届けました。地球の大気圏を通って無防備に地上に落下する隕石と違い、小惑星リュウグウのサンプルは地上環境の汚染がない状態で保管されたまま地上に届いたことから、きわめて興味深い対象です。リュウグウの粒子は太陽系や地球がどのように形成されたのかを明らかにできると考えられており、いま世界中の研究機関で分析されています。ごく一部の粒子が、科学者だけでなく、できるだけ多くの人に見てもらうために選ばれてきています。今回、アウトリーチのためのリュウグウ粒子をフランスのトゥールーズにある宇宙開発をテーマにしたテーマパーク「シテ・ド・レスパス」(フランス語で「宇宙の街」)に、私自身が届けました。
シテ・ド・レスパスでは、エポキシ樹脂に封入された1粒と、施設間輸送コンテナ(FFTC)に収められたもう1粒を展示することになっています。FFTCは研究のために粒子を輸送する必要がある際に使う容器です。宇宙科学研究所・地球外物質研究グループの矢田達(写真左側)は、輸送中に粒子を傷つけないようなFFTCの取り扱い方を説明してくれました。FFTCは縦置きが基本なので、移動中にペリカンの保護トラベルケース(写真で机の上にある黒いもの)を縦置きから横置きに動かしたいときは、ケースの中でFFTCの向きを変える必要がありました。
準備万端です!ちょっと緊張しているのが分かりますか?小惑星リュウグウでの粒子採取の際のタッチダウンを見て、いまは自分がその粒子を手に持っているとは信じられません!またこの夏はリュウグウの粒子を初めて海外の博物館に貸し出すことが決まっていて、粒子2つがシテ・ド・レスパス、1つは英国ロンドンの科学博物館へ行くことになっています。「はやぶさ2」プロジェクトにとって貴重な瞬間であることは皆が感じていました。
私の左手にあるものは、これもシテ・ド・レスパスで展示されることになっている、リュウグウ粒子を3Dプリンターで作成したモデルです。このモデルは実物の10倍の大きさで、形状が把握しやすくなっています。
小惑星の粒子、実物が私の居室に!
翌日、朝の便でフランスに向かうことになっていました。空港には早めに着くようにして、リュウグウの粒子について説明する書類を税関で提出しました。アウトリーチのための粒子は科学的な用途では用いないので、セキュリティチェックの際にX線検査を通っても問題ありません。ですが、この保護ケースとFFTCは見た目がちょっと珍しいこともあり、持ち物を申告する税関申告書を事前に用意していました。
幸いにも問題なく無事に飛行機に乗ることができました。飛行機では前の座席の下に荷物を置きますが、ケース内のFFTCを丁寧に回転させ、きちんと縦置きで収納しておきました。
なんという眺め!午後9:30頃にはトゥールーズに到着しました。ホテルの窓はシテ・ド・レスパスの方向を向いていて、敷地内のアリアン5ロケットの模型が見えています。リュウグウの粒子が新たな住処がどんなところか見られるよう、サンプルの入ったペリカンケースを窓辺に置いてみました。
シテ・ド・レスパスのチームに面会する前に、リュウグウ粒子が問題なく保管されており展示にも支障がないことを確認しました。
リュウグウ粒子をシテ・ド・レスパスのAude Lesty さん、Eglantine Lelongさんに手渡しました!ミッション完了!
リュウグウ粒子を安全な保管場所に収めた後、Eglantineさんが案内してくれました。最近洪水があったということでシテ・ド・レスパスはその日休館しており、パーク内はほぼ私たちだけでした。シテ・ド・レスパスは翌日から営業再開することになっていました。
巨大なアリアン5ロケットのほか、シテ・ド・レスパスの敷地内には世界各国の宇宙開発プログラムの進展を示す大型展示があります。中でも構造試験のために製作されたソ連の宇宙ステーション「ミール」の実物大模型は私のお気に入りになりました。ミールは様々な場面で何度もモジュールが追加されましたが、これは1990年から1995年頃にかけてのミールの姿だそうです。
ミールの向こう側には今年10月にオープン予定の新しい展示があり、ここでは宇宙飛行士がロケット打ち上げの際に体感するような高い値のG(加速度)を体験することができるそうです。
他にも、将来の月面基地をイメージしたデザインのフロアは圧巻でした。カーペットの柄は小惑星の衝突跡が残る月面を模していて、壁にはプロジェクターが投影するローバーや月着陸機もあります。座って月面を走らせることができる月面ローバーの乗り物もありました!
小惑星リュウグウの粒子はこの場所、右側で展示されるそうです。この展示のために少しリニューアルを行う予定とのこと。サンプルの展示が待ち遠しいですね!
今回の訪問の最後、シテ・ド・レスパスの最高経営責任者Jean Baptiste Desboisさん(写真左端)、トゥールーズ・メトロポールの副市長Jean-Claude Dardeletさん(中央右)にもお会いしました。右端はシテ・ド・レスパスの教育/科学/文化担当責任者Christophe Chaffardonさんで、今回のリュウグウ粒子の貸出を企画する際にご協力をいただいた主要メンバーです。
小惑星リュウグウの粒子は、トゥールーズで開催されるラグビーワールドカップの日本戦に合わせて、シテ・ド・レスパスで9月9日・10日から展示されることになっています。そして10月末より常設の展示ケースに入れられ、2024年中は展示が続く予定だそうです。お近くにお越しの際は是非お立ち寄りください!
報告:太陽系科学研究系 エリザベス・タスカー
(2023/06/28)