太陽系の惑星磁気圏は、地球に代表される「太陽風駆動型」と木星に代表される「自転駆動型」に大別できます。惑星周囲のプラズマが惑星の自転と同じ方向に回転している領域は、地球の磁気圏では地球半径のおよそ4倍程度より内側に限定されており、その外側では太陽風が駆動するプラズマ対流が発達しています。一方、木星では、この領域は磁気圏の広範囲に及び、磁気圏境界面付近(木星半径の50〜100倍)にまで広がっています。パイオニア10号から始まった6回のフライバイ観測、ガリレオ探査機の周回観測、地球からの電波・光学観測から得られた知見から、磁気圏に自転駆動型の特徴を与える原因は、強い固有磁場と速い自転速度に加え、磁気圏内部の赤道面に衛星イオという定常的なプラズマ源が存在することだと考えられています。一方で、放射線帯や強いオーロラ現象など、多くの惑星磁気圏で共通に存在する領域・現象があります。惑星大気上層の電離圏と広大な空間構造をもつ磁気圏は磁力線によって結ばれており、磁力線に沿って流れる「結合電流」による電磁力を介したエネルギーの輸送は、双方のタイプの磁気圏で重要な役割を果たしていると考えられています。

「ひさき」は、時々刻々と変化する惑星電離圏・磁気圏の姿を連続観測により明らかにすることを目的として開発が進められました。「ひさき」に搭載された極端紫外線分光撮像装置(EXCEED)で捉えた木星磁気圏の様相は、我々の期待を裏切らないものでした。イオ起源のプラズマが蓄積されることによる磁気圏の不安定化が突発的に発生し、そこで解放されたエネルギーは外部磁気圏から内部磁気圏にわたる広範囲に急速に分配されること[記事3、6]、イオの火山活動の活発化[記事7]によって、エネルギーの分配過程が活発化することが観測により同定され[記事3、10]、衛星起源のプラズマが磁気圏を特徴づけていることが明らかになりました(2-図1)。太陽風が自転駆動型の磁気圏に及ぼす影響[記事8、9]と、木星磁気圏の結合電流の特徴[記事10]についても新しい知見が得られました。地球では主役を担っていない物理過程が木星では重要な役割を果たしていることが明らかになってきており、木星磁気圏の観測結果が地球の研究に演繹されることが予感されます。変動する惑星の姿を捉えるモニタリング観測の重要性は、国内外で提案され実現が熱望されていたものでした。本号に掲載された成果は、「ひさき」が太陽系惑星の「モニタリングプラットフォーム」として設計され、長期連続観測を実行できたことによるものと言ってよいでしょう。

2-図1

2-図1 イオから流出したプラズマに満たされた木星磁気圏。磁気圏に蓄積されたエネルギーが解放され、明るいオーロラを引き起こします。※1

2-※1 理化学研究所プレスリリース (http://www.riken.jp/pr/press/2017/20170523_1/) を改編