リュウグウからの帰還試料の受け入れに際し、地球外物質研究グループでは、地球の大気にさらすことなく作業が行える専用のクリーンチャンバーを、クラス1000のクリーンルーム内に設置しました。「はやぶさ2」専用クリーンチャンバーの最大の特徴は、小惑星の環境に近い真空環境下での試料ハンドリングが行えることで、世界でも類を見ない技術となっています。真空環境下での試料の取り扱いは、地球環境からの汚染を防ぐという点では最も有効な方法である一方、内視鏡とマニュピュレーターに頼らざるを得ないことから、熟練の技術が必要です。我々地球外物質研究グループは、合計4回の通しリハーサルや、「はやぶさ2」サンプラーチームとの合同リハーサルに加え、各工程での要素試験を幾度となく実施し、手順や治具の改良を行ってきました。果たして本番では、リハーサル通り真空下でサンプルコンテナ・キャッチャを開封し、リュウグウ試料の回収・保管に成功しました。

現在、リュウグウ試料は、真空環境で保管されている一部を除き、大部分は窒素環境チャンバーに移動され、光学顕微鏡による詳細観察が進められています。今後は、試料全体の観察を行った後、粒子ごとの観察に進む予定です。今後の観察では、光学顕微鏡に加え、可視・近赤外領域における分光・イメージング観察を行い、リモセン観測データとの比較を可能とします。

「はやぶさ2」では、想定内ではあるものの、目標値の0.1gを桁で上回る約5. 4 gの試料を回収しました。当然ながら、多量の試料の分析で得られる科学的知見は増大します。加えて、グラム単位を超えるリュウグウ試料の取り扱いで得られる経験は、OSIRIS-RExのみならず、MMXによって2029年に帰還予定のフォボス試料(目標値:>10g)のキュレーション・分析技術の開発に大きく貢献することになるでしょう。

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キュレーション施設での作業風景