2020年12月5日のお昼頃、管制室は緊張感に包まれていました。その日はカプセルを分離し、大気圏に突入させる運用の日でした。困難な小惑星近傍フェーズをやりきった運用チームにとって、何でもない運用であると思われるかもしれません。確かに、地球近傍で電波の遅延がないというのはありがたい状況ですが、絶対にやり直しのきかないという点が運用チームにプレッシャーをかけていました。もちろん準備は万端で、事前に訓練とリハーサルも行ない、チームは自信を持って当日を迎えています。それでも、"絶対"はないことはチーム全員が知っています。

運用はカプセルを外部電源からバッテリ電源に切り替えることから始まりました。カプセルチームのホッとした表情がチームを安心させます。その後は拍子抜けするくらい計画通りでした。全ての分離準備が整い、後は定刻の分離を待つだけ。「3、2、1、カプセル分離」。皆が探査機の挙動に注目します。分離成功! 管制室が「わぁ」と盛り上がります。それでも皆はすぐに冷静になり、次の地球離脱に向けて作業を進めていきます。本当に素晴らしいチームです。探査機の地球離脱のエンジン噴射も無事終了。化学推進系のチームもホッとしています。これで、打ち上げ以来皆で繋いできた襷をカプセルチームとカプセル回収チームに渡すことが出来ました。サンプルリターンミッションは、皆の想い(とプレッシャー)が蓄積されていく襷を繋ぐ駅伝のようなものです。誰一人欠けてはなりません。探査機管制メンバーはやり切った顔をしています。私も「後はよろしく」とカプセルチームににやけ顔でプレッシャーをかけることを忘れません。この時、すぐにその後の探査機の長時間の日陰通過で再度胃がキリキリし始める事はすっかり忘れていました。ゴールの後にすぐに再スタート。何と長い駅伝でしょうか(笑)。

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カプセル分離運用の成功を祝う管制室の運用メンバー