はじまりは新しいミレニアムを迎える前後のことでした。当時、Geotail衛星をはじめとする1990年代の国際協力による地球周辺の宇宙空間(=ジオスペース)探査は次のステージへ移行しつつあり、日本でも次世代計画の必要性の声があがりはじめていました。この時、最年長でも30代半ば以下の若手研究者・大学院生の有志が集まって将来に向けた議論を行い、温めはじめた計画の卵の1つがERGです。ミッション実現までの道程すら定かではない中、小型科学衛星という道標を得、数々の困難を乗り越えた結果、「あらせ」として実を結ぶことができました。全観測機器が観測を開始し、全ての観測データを並べたプロットをはじめてみた時の感動を忘れることができません。「あらせ」はその感動から5年近く経った今も、素晴らしい観測データを送り届けてくれています。

本特集号ではここまでの「あらせ」の科学成果のハイライトを紹介させて頂きます。当初の科学目的である、放射線帯の高エネルギー電子の加速・消失に係る成果はもちろんのこと、私たち自身も想定していなかった驚きの発見も得られました。"プラズマ"や"電磁場"など、難しい言葉がでてきますが、執筆をお願いした皆さんには、できるだけわかりやすく解説してもらいましたので、ご高覧頂ければ幸いです。

はじまりから約20年の月日が流れました。この間、故小野髙幸先生をはじめとして、数え切れないぐらい多くの方々のご指導、ご支援や励ましを頂きながら、ここまでたどり着くことができました。この場をお借りして、あらためて深くお礼を申し上げるとともに、「あらせ」科学成果の報告をお届け致します。「あらせ」のこれまでの観測期間は、第24から25太陽活動サイクルに移行する太陽活動極小期に対応します。今後、太陽活動極大期に向けて太陽活動の上昇とともに「あらせ」が出会ったことのない大規模な宇宙嵐を観測するチャンスもあるでしょう。更に、世界ではじめて同一衛星で1太陽活動周期におよぶ放射線帯中心部の長期間観測を行い、第25太陽活動サイクルの全体像を「あらせ」のジオスペースの観測を通して把握することを目指します。今後の「あらせ」の科学成果にもご期待下さい。

表紙図

特集号 表紙図:「あらせ」がみた放射線帯
「あらせ」搭載の超高エネルギー電子分析器(XEP)が観測した2メガ電子ボルトのエネルギーを持つ電子のフラックス分布。2017年4月2020年3月の平均値をカラーで表示している。縦軸・横軸は地球中心からの距離(地球半径を単位とする)を表す。太陽活動下降期から極小期における放射線帯外帯の姿をくっきりと浮かび上がらせている。