「あかり」は「赤外線で見た宇宙の地図」をつくるために、全天に対する「サーベイ観測」を実施してきました。これは、風景などの写真を何枚も合成してパノラマ写真にするように、半年間かけて検出器で空を少しずつ観測していき、そのデータを後からつなぎ合わせることで広大な全天の地図をつくり上げるものです(この結果については『ISASニュース』2009年1月号「『あかり』全天サーベイ赤外線天体カタログ初版の完成」を参照)。一方で、衛星や検出器の特性を生かして、衛星を一定時間同じ方向に向けて特定の天体をじっくり観測する「指向観測(ポインティング観測)」も行っています。一つの指向観測は姿勢制御を含めて約30分間が単位になり、その間はサーベイ観測を中断しています。サーベイ観測で得られる地図の完成度は高めたい、けれども指向観測で詳細に調べたい対象はたくさんある、という相反する要求を、それぞれに折り合いをつけて共存させる(なんと日本人的な発想でしょう!)のが、スケジューリングにおいて非常に大変な作業になりました。
「あかり」はサーベイ観測を目的として設計された衛星なので、指向観測を行う自由度は非常に低く(1日に観測可能な天域は全天の3%もありません)、衛星のさまざまな運用制約条件のもとで多くの観測計画を組み立てるというのにも骨が折れました。この作業では、コンピュータの中で衛星の動きをシミュレーションし、ベストなタイミングでの観測を行えるように観測計画を立案していきます。衛星の軌道は安定しているとはいえ、わずかずつ(軌道高度が1日に数十cmから大きいときには数十m以上も)変化しているので、その変化に合わせて観測時刻を最適化するという調整も日々行っています。
苦労のかいもあって、打上げ後から冷媒の液体ヘリウムがなくなる2007年8月までの550日間の間に、全天の94%以上のサーベイ観測と5000回以上の指向観測を行うことができました。冷媒がなくなった後も、機械式冷凍機を用いて近赤外線の波長域での観測を続行しています(本稿執筆時の2009年3月現在も継続中で、すでに指向観測は1万5000回以上)。
「あかり」の観測提案は、衛星開発・運用の関係者だけでなく、日本、韓国、そしてヨーロッパ各国の天文学者からも集められました。皆さん優秀な研究者ばかりですが、要求もとてもシビアです(無理難題も多かったのです......)。観測対象は太陽系内の天体から遠方銀河まで、まさに全宇宙にわたっていますが、スケジューリングを担当した者としては、その一つ一つに思い入れがあります。こんなにも幅広い分野にかかわることができたというのは、この仕事ならではのやりがいだと感じています。
(うすい・ふみひこ)