天の川銀河(銀河系)は、我々にとって最も身近な銀河です。銀河系のほかにもさまざまな銀河が存在していますが、我々が属するこの銀河ほど詳細に観測できるものはほかにありません。特に銀河系の中心は、ブラックホールの存在が知られていたり、ガスの状態が複雑であったりと、非常に面白い観測対象になっています。それ故、さまざまな波長でいろいろな観測が行われています。

我々は「あかり」に搭載された遠赤外線サーベイヤ(FIS)の分光観測機能を用いて、銀河系中心付近に存在する若い星の高密度の集団(クラスター)の観測を行いました。

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図14  「あかり」遠赤外線分光器で得られたスペクトルの一例
連続波のほかに、波長158マイクロメートルの[CⅡ]線、122マイクロメートルの[NⅡ]線、88マイクロメートルの [OⅢ]線(図ではそれぞれ63cmー1、82cmー1、113cmー1に位置する)が観測された。

分光観測で得られるスペクトルは、撮像観測で得られるきれいな画像に比べると地味な印象を受けますが、そこにはより豊富な情報が入っています。遠赤外線領域では、星間塵からの放射を示す連続した波長範囲で放射する成分(連続波)のほかに、ガスの情報を有した特定の波長で放射する輝線がいくつも存在します。「あかり」では連続波と3本の輝線を観測することができました(図14)。二階電離した酸素の放射する[OⅢ]線、一階電離した窒素の放射する[NⅡ]線に加え、一階電離した炭素の放射する[CⅡ]線です。これらの輝線はそれぞれ異なった状態のガスから放射されます。得られた輝線情報から、観測領域における輝線強度の分布図を作成したのが図15です。電離エネルギーが高く、主にガスが電離された領域から放射される[OⅢ]の輝線は、クラスターの周辺で非常に明るくなっていることが分かります。これはクラスター周辺のガス雲がクラスターからの強い放射によって電離されていることを非常によく示しています。一方、電離エネルギーの低い[CⅡ]線の分布図を見てみると、[OⅢ]線の分布とまったく違う様子を示していることが分かります。これは[OⅢ]線と[CⅡ]線の電離エネルギーの違いによると考えられます。どちらもクラスターが電離/励起源であり、クラスターからの放射光は周囲のガス雲を表面から電離していきます。しかし、エネルギーの高い光子は表面で消費されてしまうのに対し、エネルギーの低い光子はガス雲の内部まで届いているということが、[OⅢ]線と[CⅡ]線の分布図から分かります。

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図15 得られた輝線情報から作成した輝線強度分布図
クラスターの位置は緑点で示した。このクラスターに対し、銀河中心側の輝線分布が[OⅢ]と[CⅡ]で異なった様子を示しており、[CⅡ]の方がクラスターからより遠いところでも明るくなっている。観測範囲の違いは長波長側と短波長側の2種類の検出器の位置の違いによるものである。

銀河系中心付近のクラスター領域を遠赤外線で分光観測し強度分布図を作成したのは、「あかり」が初めてです。この結果は、「あかり」の2次元検出器を持つという特徴を存分に生かした観測によるもので、クラスター周辺のガスの状態の変化をよくとらえています。紹介し切れませんが、このほかに[NⅡ]線や連続波の情報が得られており、それらを総合的に解析することで、このクラスター周辺の複雑なガスの状態を明らかにすることができます。

(やすだ・あきこ)