2006年2月22日早朝、内之浦からM-Ⅴロケット8号機で打ち上げられて「あかり」は誕生しましたが、少々難産となりました。「あかり」は海外に設置された新GN局(地上ネットワーク局)を運用に用いた初めての科学衛星でした。打上げ直後のオーストラリア・パース局で一瞬受信されたデータは異常を示していました。制御に必要な太陽センサに太陽を検出した兆候が見えないのです。半周後に行う自動軌道制御は、太陽が検出されないことが原因で異常検出機能が働き、短時間の噴射のみになっていました。姿勢維持ができないことで、太陽を太陽電池に十分当てられません。その後は、予定にない機能復帰運用に取り組み、新GN局の手厚い支援に支えられ、その日のうちに取りあえずの平静を取り戻しました。

確実な原因はいまだに分かっていませんが、二つある太陽センサの視野が狭くなる、太陽電池電力の低下、想定外の温度など、衛星の太陽面側に何らかの遮蔽物があるような異常があったようです。太陽センサを失ったことはとても痛く、衛星に異常が生じた際に太陽センサのデータを用いて自律的に待避姿勢に維持する機能が使えなくなりました。これは、衛星の生命にとって懸念される事態です。十分な対策ができないうちは、搭載した液体ヘリウムを守るためにも冷却望遠鏡の蓋を開けられませんし、一方で、蓋を開けないと液体ヘリウムは早く減ってしまい、観測期間を無駄にします。

議論の末、地球センサとジャイロのみを用いた待避姿勢制御をメーカーの協力で急きょ開発しました。衛星機上のソフトを書き換え、正常動作を確認して、予定のほぼ1ヶ月遅れで冷却望遠鏡の蓋開けとなりました。こうして、無事に目も明き、本当の「あかり」の誕生を迎えることができました。

運用チームの集合写真

図2 ようやくクライオスタットの蓋が開き、ファーストライトを迎えて喜ぶ運用チーム(内之浦組)。2006年4月13日。

「あかり」は液体ヘリウムが550日目でなくなり、打上げ直後の異常の後遺症も抱え、すっかりおばあちゃんになりましたが、今も元気に観測を続けています。

(きい・つねお)