なぜハンガリー語?
大学ではハンガリー語を専攻されています。なぜハンガリー語を選んだのですか?
私は岐阜県の信号が3つしかない町で育ちました。家の前には田んぼ、美しい川、大きな山々が広がり、春は田植え、夏は川遊びやホタル、秋は栗きんとん作り、冬は雪合戦など、楽しい思い出が沢山あります。大自然に囲まれた町だったので、幼い頃から「この町を出て、もっと広い世界を見てみたい」と考えていました。
外国語の習得は異なる世界に触れ、様々な視点からの考えを持つきっかけになると考え、高校の職員室で先生とどの言語にするか相談しました。すると隣で聞いていた教頭先生の娘さんがハンガリー語を専攻されており「ハンガリー語、面白いらしいよ!」と伺いました。自身が生まれたヨーロッパに憧れがあったことや、ハンガリー語専攻は日本の大学で1つしかないことから、挑戦することに決めました。
ハンガリー留学は、いかがでしたか?
留学はパキスタン、ナイジェリアの留学生と1つの部屋で過ごしました。そこで朝から晩まで街に出て、ハンガリー語を聞き、積極的に話すようにしました。次第に言語が上達し、ハンガリー人の友達がたくさんできました。ドナウ川沿いでハンガリー語と日本語を互いに教え合い歩いたり、実家に呼んでいただきクリスマスやイースターを祝ったりと、日本から遠く離れた地で、温かい思い出ができて嬉しかったです。帰国してハンガリー大使館主催のスピーチコンテストで優勝、ハンガリー語の資格も取得することができて、ハンガリー語の上達を実感できました。
さらにブダペストでは、卒業論文に向けてインタビュー活動を行いました。ドナウ川の一本入った通りにある老舗菓子屋で、開店前、早朝からインタビューを行いました。この老舗菓子屋は150年の歴史を持ち、大統領や地元の人々に愛されています。しかし第二次世界大戦で店ごと破壊され、その後ソ連による占拠を受けました。過酷な時代を菓子職人たちがどのように生き抜き、大きな成功を収めたのか、経営成功の秘訣を卒業論文にまとめました。菓子店に行くと、「Szia, Naoko! (こんにちは、尚子!)」とオーナーご家族が迎えてくださり、工房を見ながらインタビューを行う時間は楽しく貴重でした。
日本でもハンガリーに触れる機会はあり、人気ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』はハンガリーのことわざ "Szégyen a futás, de hasznos1) " が元になっています。またコンピュータの基礎、ルービックキューブ、ビタミンCを発見したのも、「ハンガリー宇宙人説」という言葉があるほどの天才的なハンガリー科学者たちです。
1) Szégyen 恥である / futás 走ること(逃げること) *名詞の前にはaをつける / de しかし / hasznos 役に立つ
* 直訳 「恥である/逃げることは/しかし/役に立つ」
* 基本的に日本語と同じ語順であるが、先頭の言葉が協調される。今回はSzégyenを先頭にすることで、恥であることを強調。
ハンガリー語とフルマラソンとJAXAの共通点
幼い頃から宇宙開発の仕事を考えていましたか?
残念ですが、考えるきっかけがなかったです。小学生のとき母に「この町を出て、もっと広くて大きな世界を見てみたい!でも海外に行っても、またもっと広い世界を見たいと思うだろうな」と話をしたことがあります。すると母から「じゃあ、宇宙に行くしかないね!」と陽気に言われ、笑って話をしたことを覚えています。
なぜJAXAに?
大学のハンガリー語専攻でJAXAに勤める先輩がいらっしゃり、コロナ禍のオンライン授業で、「はやぶさ2」のカプセル回収に携わったお話を伺いました。皆で技術や努力を集結させて、1つのものを宇宙に飛ばすというミッションに、無限の広がりと感動を覚えました。すぐにつくば宇宙センターに行き、スペースドームでOBの方のお話を伺いました。
採用選考ではどのようなことをアピールしたのですか。
2度のフルマラソン完走や、サイクリング部での日本周遊、留学でのインタビュー活動など、体力と根気に自信があることをお話しました。一見、宇宙開発とは関係がないのですが、面接官には「宇宙開発と頑張ってきたことには共通点があるね」と言っていただけました。
1つ目の共通点として、すぐにビジネスや利益に直結しないこと、2つ目に成果が出るまでに長期的な努力を有することです。
私はこれまで将来の夢を決めていなかったのですが、勉強をして様々な経験を積むことで、自身の能力や可能性が広がり、やりたいことが見つかったときには、それを叶えることができると考えていました。自身が挑戦してきたことが幸運にも宇宙開発に繋がり、とても嬉しく思います。

宇宙開発の知見を深める
現在2年目ですね。これまでで印象に残っている仕事はありますか?
配属1か月目に、韓国の国際学会に同行したことです。宇宙研所長と共に、韓国や中国、オーストラリアの宇宙機関関係者との会合に出席して議事録を担当しました。Space Agency Roundtable では宇宙研國中所長とNASA Melroy副長官が並んでご登壇され、驚きと感動で胸が高鳴りました。今皆さんがどの惑星・天体について議論されているのか、人類で宇宙に向かって挑戦する姿に感動を覚えました。
予算管理のためにもプロジェクトをもっと理解したい
現在はどのような仕事をされているのですか?
宇宙科学研究所の予算担当をしています。すべてのプロジェクトや事業に、現状の課題や来年度の資金計画を伺い、適切に予算を配分します。
予算管理において心掛けていることはありますか?
研究開発の内容そのものを理解し、実情に即した予算管理をすることです。宇宙研では研究室に伺い、先生方や研究員との直接の会話を大切にしています。宇宙開発は大変興味深いですし、今後は公認会計士の資格取得や、技術系の大学で学ぶことにも挑戦することで、予算という面から様々な研究開発を支えたいです。
その原動力はどこからくるのですか?
JAXAは日々、惑星探査や最先端技術への挑戦が進んでおり、それが好奇心を持つ人々に支えられ、いつも驚きや新たな発見に囲まれている環境です。私は学ぶことが好きなのですが、宇宙はどこまで行っても未知で無限大、しかしそれが原理や法則に従って説明することができます。宇宙で実際に起きているということがどこか現実的であり不思議で、とても面白い分野だと思います。
宇宙の絵本をつくり、子どもたちの選択肢を広げたい
小さいころは漫画家になりたかったとのことですが、今も絵を描いているのですか?
はい!私は絵を描くことが大好きなので、宇宙開発に関する絵本を作りたいと考えています。絵本は惑星や天体の特徴を正確に捉え、多くの知見を得られるもの、また美しい挿絵がたくさん詰まったものにしたいです。さらにハンガリー語をはじめ、様々な言葉に翻訳することで、世界中の人々に絵本を届けたいです。 小さな町ではアクセスできる情報にも限られていた経験から、今後は宇宙開発の持つ魅力や知見を世界中に届け、多くの人々が夢や目標を持つきっかけとなれば嬉しく思います。 このイラストは太陽からはじまり、水金地火木、探査機を人に見立ててアンテナやSAPをつけて、サンプルリターン、スイングバイ、宇宙デブリの回収を行う様子を描きました。
生まれ故郷、ドイツ・フライブルクを訪れて
大学時代にフルマラソンを2回完走しているとのことですが、なぜマラソンをやろうと思ったのですか?
中高は卓球や硬式テニス部でしたが、勝敗は相手のコンディションにもかなり左右されます。そこで自分の努力がそのまま記録となるスポーツに挑戦したいと考え、走ることに挑戦しました。授業終わりにサークルで集まり、最初は3kmしか走れなかったのですが、練習して10km、さらに練習して大学のキャンパス間30km往復もできるようになりました。効率的な練習方法を試すことで、数字として結果を得ることができるので、すぐに達成感を得ることができます。走ることで集中力も高まり、爽快感にもつながります。マラソン本番では、ランナー全員で走っているという個人競技ながら一体感を感じることができて楽しいですし、完走したときは大きな自信になりました。次はホノルルマラソンに挑戦したいと考えています。
生まれたドイツのフライブルクを訪れたことはあるのですか?
ハンガリー留学の際、誕生日にフライブルクを訪れました。実家でビデオを見ていたので、ここで遊んでいたのかな...と想像を膨らませながら歩きました。日本にいる母と電話をつなぎ、住んでいた家を見つけた時には、不思議な気持ちになりました。
私は岐阜の小さな町で育ちましたが、ドイツという別の世界もあり、どちらも同じように空気や時間が流れている――という感覚がずっとありました。だからこそ、広い世界を見てみたいと思うようになったのかもしれません。フライブルクで生まれ、岐阜の小さな町で育ったことが、今の自分を形作っているのだと思います。
【 ISASニュース 2025年10月号(No.535) 掲載 】(一部加筆)

