科学観測用大気球は、飛行機より高く、人工衛星よりも低い高度に長時間にわたり滞在できる唯一の飛翔体として、宇宙や地球の観測に用いられてきました。科学観測と工学実験のための大切な飛翔体の一つです。
日本において、大気球は三陸大気球観測所から毎年10機程度放球されてきました。観測所が開かれた1971年から2007年の閉所までの間に放球された大気球は、合計400機を超えました。
2008年度より、北海道大樹町にある大樹航空宇宙実験場での大気球実験が始まっています。
大気球は、宇宙線物理学、赤外線天文学、高エネルギー宇宙物理学、超高層大気物理学、宇宙生物学など様々な分野での科学観測に利用されています。新しい輸送、探査技術の工学実験も、大気球を使って行われています。
同時に、気球実験の可能性を広げる、新しい気球の開発を行なっています。特に、飛翔高度を向上させる薄膜型高高度気球の開発、および、長時間の飛翔を可能にするスーパープレッシャー気球の開発に宇宙科学研究所を中心とした研究グループは力を入れてきました。

気球の開発

薄膜型高高度気球は、気球に使うフィルムを薄くして気球自体を軽くした、高くまであがる気球です。搭載重量は数kgです。2013年には、無人気球到達高度の世界記録を更新し、高度53.7kmまで到達しました。

気球用フィルムとして世界で最も薄い、厚さ2.8μmのポリエチレンフィルムを用いて製作した容積80,000m3の小型気球による「超薄膜高高度気球飛翔性能試験(BS13-08)」の立ち上げの様子。

BS13-08放球の様子

宇宙科学研究所では長時間飛び続けることができる気球、スーパープレッシャー気球の開発も行っています。
通常の気球は、気球の下部に排気口がついており、気球ガスの圧力と飛翔している大気の圧力が等しくなっています。
このタイプの気球は、日が沈むと気球のガスの温度が下がってしぼんでしまうため、浮力を失い気球は降下してしまいます。このため、日没になると気球につんだバラストと呼ばれる砂を投下して軽くすることで、降下を防いでいます。気球が飛び続けるには、このバラストを毎晩、落とさなければなりません。つまり、最初に積んだバラストの量で飛行時間が制限されてしまいます。
この問題を解決するには、気球を密閉してあらかじめ圧力をかけておくことで日が沈んでもしぼまないようにした、スーパープレッシャー気球が有効です。
当研究所では、様々な技術開発を進め、小型気球の屋内膨張試験、飛翔試験によってその技術を一歩ずつ確認してきました。2006年には、体積2,000m3の気球を飛翔させ、十分に圧力に耐えられることを確認しています。2007年には、ブラジルで、実際の科学実験に利用することができる、体積300,000m3の気球を飛翔させる試験を行ないました。

屋内膨張試験(左)と飛翔試験(右)の様子

スーパープレッシャー型の気球は、金星や火星などの大気を持つ惑星でも使用できる可能性があります。温度環境が変化しても浮力が影響を受けにくいためです。
当研究所では、他の惑星での使用に適した気球の研究開発も行っています。実現すれば、気球による観測で金星や火星の地表を詳しく観測したり、これらの惑星の大気のその場観測が実現できます。

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