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JAXA/宇宙科学研究所が、「はやぶさ」で世界に先駆けて実証したサンプルリターンミッションは、今後の惑星探査の柱となっています。それを支えた重要な技術として、サンプルリターンカプセルがあります。遠くの天体で獲得したサンプルを搭載し、猛スピードで地球大気圏に突入し、サンプルを無事に地球に送り届けるのがその役目です。将来、もっと多くのサンプルを、そして、もっと遠くの天体から持って帰ってくるには、サンプルリターンカプセル技術の更なる発展が必須となります。

そこで、今回、オーストラリアのアリススプリングス(オーストラリアの真ん中の町)で、JAXA宇宙研の大気球実験グループが運用する大気球を使って、「はやぶさ」型のサンプルリターンカプセルの自由飛行試験(B23-02「はやぶさ型カプセルの遷音速・低速域の空力安定性評価(SRC)」)が行われました。将来のサンプルリターンミッションにむけて、より多くのサンプルを持って帰ってくるために「はやぶさ」「はやぶさ2」ミッションで用いられた直径40cmのカプセルから直径60cmへ大型化したサンプルリターンカプセルの実験機を開発し、それを高度40kmから実験機を投下し、マッハ数1を超える遷音速領域の安定飛行と高高度(高度約14km)でのパラシュートの展開を実証しました。

Fig.1

澄んだ青空と赤茶色の土壌のコントラストが美しいアリススプリングの町の入り口にあるモニュメント。砂漠(アウトバック)観光の拠点の町と言っても、町の周りは緑も豊か。青い空、白い雲、赤い大地、緑の木々とまさにオーストラリアという場所。

 Fig.2

今回の実験のために開発した直径60cmのはやぶさ型カプセルの実験機(左)、そして、気球のゴンドラに取り付けられたカプセル実験機(右)。フライト時には発泡スチロールで囲まれた状態となります。

Fig.3

3月に現地入りして、実験機の準備を行っています。実験機の組み立ての様子です。今回の試験に重要なパラシュートをカプセルの中に丁寧に収納(左上)。カプセル本体だけでなく、ゴンドラから切り離す装置(右上)や気球をコントロールする装置なども搭載し、ゴンドラ全体の組み立て完了する(左下)。完成したゴンドラと一緒に集合写真をパシャリ(右下)。

Fig.4

そこからしばらくして、5月11日に、実験実施の条件が整ったので、いざ実験開始。実験当日は、前日の夜中から、早朝の放球にむけて準備作業を開始します。ゴンドラを放球クレーンに取り付けて(左)、そのまま吊り下げた状態で、放球場へ移動します(右)。

Fig.5

現地時間の深夜3:00頃、カプセル実験機、および、ゴンドラの動作確認作業は完了。あとは、気球にヘリウムガスをいれて放球を待つのみ。

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美しい朝焼けの中、気球にヘリウムガスの充填作業を完了し、放球を待つ。写真の左下が、ヘリウムガスが充填された気球の頭部、写真の右上部に放球クレーンに吊り下げられているのが、カプセル実験機が搭載されたゴンドラです。気球の頭部からゴンドラまでの長さは100mにも及びます。

Fig.7

準備を完了し、放球予定時刻になるも、地上の風向きが予報と異なっており、放球に適する風を待つこと1時間。風向きが回復したところですかさず放球。その時には、すっかり夜もあけており、雲一つない快晴の青空の下、現地時間の7時39分、無事に放球成功。

Fig.8

大気球実験は打ち上げてからが長いのです。カプセルを投下予定場所にむけて、高層風の風を読みながら、気球の航跡をコントロールします。写真は、気球飛翔中の運用室の様子です。奥には、落ち着かない我々、SRCチームの様子が写っています。放球から約3時間45分後,無事、カプセルの投下可能場所に到達し、ゴンドラにカプセルを切り離す指令コマンドを送って、実験開始です。

 Fig.9

カプセル投下は、無線で伝わる情報で確認します。ゴンドラから切り離して、自由落下開始。その後、115秒後にパラシュートの開傘、その後、約1300秒後に軟着陸と、次々と伝わる計画通りの情報で実験の成功を確信します。
カプセルが投下される様子は、カプセル本体やゴンドラに搭載されたカメラにちゃんと記録されていました。(この画像はリアルタイムでは見ることができず、カプセルやゴンドラの回収後に確認したものです)。

(左上・左下)ゴンドラからカプセルが投下される様子
(右上)投下されたカプセルから見た気球
(右下)投下から約115秒後、パラシュート開傘に成功

Fig.10

無線で送ることができるデータには限りがあるので、貴重なフライトデータの多くは、カプセルやゴンドラの中に記録されています。なので、回収作業は実験の成否に大きくかかわります。ここは、サンプルリターンミッションと同じ。GPS情報を頼りに、セスナを飛ばして、カプセルを上空から捜索。写真は、カプセル本体(インスツルメントモジュール)の発見時、捜索用セスナから撮影した一枚。白色のパラシュートが目印となって発見できました。

Fig.11

翌日、現場にヘリコプターで出かけて、カプセルを回収します。写真は、樹木に引っかかった状態で発見されたカプセル本体とパラシュートです。「はやぶさ」、「はやぶさ2」の回収時を思い出す光景です。

Fig.12

その後、背面ヒートシールド(左)、前面ヒートシールド(右)も無事発見。これらは、パラシュート展開時に分離されたものですが、位置を教えてくれる電波をださないので、風の予測を頼りに探します。「はやぶさ」「はやぶさ2」での回収の経験も生きて、ちゃんと見つけて回収できました。

Fig.13

すべての物品を回収し、貴重なフライトデータとともに、カプセル回収などの多くの知見も得ることができ、試験は大成功でした。写真は、回収されたカプセルと実験チームメンバの集合写真。

本試験の実施のために多大なご尽力をいただいた、大気球実験班、豪州当局をはじめ、全ての関係者の皆様に、この場を借りて感謝申し上げます。

(2023/06/05)