大学院生の頃からGEOTAILと関わってきました。自身は、宇宙研に所属しつつも計算機を用いた理論研究をする「あまり役に立たない」学生だったのですが、「こういう新しい観測をすることをどう考えるか」といった質問を教授室に呼び出されて受けたことを、よく覚えています。「こんなことを自分に聞いてくるぐらいに新しいことをやるのだな」という強い印象を受けました。実際、それまでの観測精度とは次元の異なるデータが生み出され、そのデータ解析と理論的考察が緊密に絡み合うことで、宇宙空間を満たすガスがどのように振舞うのかを理解していく新しい観点と研究スタイルを世界の学界に提示しました。GEOTAILの最大の成果のひとつは、そのスタイルがその後20年以上にわたって世界の太陽圏科学界で真似されてきたことだと思います。2000年代には「GEOTAILは磁気圏観測分野で最も成功した計画のひとつ」という言い方もされていました。

GEOTAILの成功は、宇宙研の地球惑星科学分野における国際協力の形も大きく変える契機となったと思います。GEOTAIL以降は、以下のように世界から注目されるポテンシャルのある計画が続いたのですが、そこでの存在感を確保する上でGEOTAILでの経験が生かされていたと考えるからです。

「かぐや」は人類が月探査を再開する先陣を切る形になったわけですが、その月面宇宙環境の把握においてもGEOTAILで得た知見を活かし、新しい研究テーマを切り拓いて世界にインパクトを与えるということをしました。この展開は、月と同様に大気を持たず天体表面と宇宙空間が直に接している水星を探査する計画にもよい影響を与えました。この計画は欧州との大型協力で進めるベピ・コロンボですが、欧州側が主導するもの、かつ、水星到達まで長い期間が必要となる計画において、日本の存在感を出すには面白くて新しいアイディアを出すことが特に効果的です。これはまさにGEOTAILで学んだことです。その経験が、ベピ・コロンボの打ち上げ後・水星到達前に複数回行う金星・水星のスウィングバイの際に取得された観測データの解析に、日本の若手が活躍する素地となったと思います。存在感を持ってコミュニケーションを持つことで欧州コミュニティとの親密な関係が確立し、それが欧州主導の氷衛星探査計画JUICEへ参加することにつながりました。15年前にはそのための枠組すら無かったのが、今では海外主導計画への参加は宇宙研の活動の柱のひとつです。

小惑星サンプルリターン「はやぶさ」シリーズにおいては、私自身が必ずしも研究者という立場ではなく国際協力の案件調整に参加してきたのですが、そこでもGEOTAILでの経験を根拠とする自信が支えになっていました。「あまり役に立たない」大学院生が「少しは何かができる」宇宙研メンバーになったということです。