「あかり」の主目的は、全天の大部分を赤外線でサーベイし、天体の住所録や赤外線の地図を作成することです。しかし全天サーベイの場合、観測装置の見ている方向がかなり高速(1秒間に4分角)で移動するため、露光時間が短くなり、検出できるのは比較的近くて明るい天体に限られます。今から70億~100億年昔の宇宙に存在した銀河からの微弱な赤外線を検出するには、数十~数百秒の露光時間がどうしても必要です。そのため、「あかり」には全天サーベイモードとは別に、空の1点を約500秒間見続ける指向観測モードが用意されています。
「あかり」は観測開始から液体ヘリウム消失までの約1年半に、約5000回の指向観測を行いましたが、そのうちの約14%に相当する700回の指向観測を北黄極領域(黄道座標での北極で、りゅう座の方向)に投入し、遠方銀河サーベイを大々的に行いました。北黄極で行った理由は、南北黄極方向が「あかり」からの可視性が最も良いからです(南黄極付近は大マゼラン雲の大規模サーベイを実施)。図21は、「あかり」がどのように北黄極サーベイを行ったかを示したものです。北黄極サーベイは、0.38平方度の「ディープ(深探査)」領域、5.8平方度の「ワイド(広域探査)」領域の2つからなっており、ほぼ毎日行った指向観測の方向を少しずつずらして、最終的に図のような円形の領域を観測しました。それぞれの領域で、「あかり」の近・中間赤外線カメラ(IRC)の全観測波長(2.5~24マイクロメートルの9波長帯)の画像を作成しました。図22は、そのうち2.5~4マイクロメートルの「ディープ」領域の疑似カラー合成画像で、約2万個の赤外線天体が見えています。また、中間赤外線(波長15~18マイクロメートル)においても4000個以上の赤外線天体を検出することができました。驚いたことに、この赤外線天体の30~40%が可視光では非常に暗く、その観測には8~10mクラスの大望遠鏡が必要となります。一方「ワイド」領域では、検出限界は「ディープ」には及ばないのですがサーベイ領域の広さから、近赤外線で約10万個、中間赤外線でも約1万個の赤外線天体を検出できました。プロジェクトチームには、国立天文台、岩手大学、ソウル大学(韓国)、オープン大学(英国)、UCLA(米国)などから多くの研究者が参加しています。みんなで分担して「すばる」望遠鏡、電波干渉計、紫外線天文衛星GALEXなどによる観測を進め、多波長のデータを用いて「あかり」赤外線天体の正体を研究しているところです。
「あかり」が打ち上がる前に、米国はSpitzer宇宙望遠鏡を2003年に打ち上げ、遠方銀河サーベイをいろいろな領域で大々的に行いましたが、「あかり」北黄極領域サーベイは2.5~24マイクロメートルをすき間なくカバーする撮像フィルターを備えているなどのユニークな特長があります。近いうちに、この北黄極サーベイで検出された赤外線天体のカタログや処理済みの画像を全世界に公開しますので、ぜひいろいろな分野の方々に利用していただければと思います。
(まつはら・ひでお)