現在、JAXAでは、「はやぶさ」に続く小惑星探査計画「はやぶさ2」の検討を進めています。「はやぶさ」は、地球に最も頻繁に落ちてくる「普通コンドライト」と呼ばれる隕石と同じ鉱物組成であると考えられている小惑星「25143 イトカワ」を探査しました。「はやぶさ2」では、普通コンドライトより低温領域で形成され、多くの有機物を含んでいる「炭素質コンドライト」隕石と同じ鉱物組成を持つと考えられている、「C型小惑星」の探査を考えています。現在「はやぶさ2」の目的地の第1候補として考えられているのは、「162173 1999JU3」という小惑星です。

小惑星の大きさは探査機がその天体とランデブーする上で非常に重要な情報であり、表面の反射率も探査機の熱設計やカメラの感度を決める上で重要な情報です。また表面の状態は、表層の物質を採取するときや小型着陸ロボット探査には必須な情報です。それ故、大きさ、絶対反射率、表層状態の情報は、1999JU3を探査する上で事前に知っておくべき必要不可欠なものです。1999JU3については、これまで色の観測からC型小惑星であることが分かっていますが、大きさや絶対反射率、表層状態の情報は得られていませんでした。

1999JU3のような小さな小惑星についてこれらの情報を得ることは、地上観測が可能な可視光のみでは困難です。木星や土星のような大きな天体は望遠鏡によって形が分かるので、それから大きさを求めることができます。しかし、1999JU3のような小さな小惑星は、たとえ「すばる」望遠鏡をもってしても、点としか見えません。そこで、天体の明るさから大きさを計算するのですが、惑星や小惑星を可視光で観測する場合、それは太陽光の反射光を見ています。すなわち、絶対反射率と大きさの2つのパラメーターが明るさに関係するので、一方が分からないともう一方も分からないことになります。

「あかり」がとらえた小惑星1999JU3の画像

図4 「あかり」近・中間赤外線カメラがとらえた小惑星1999JU3(視野中心の黄丸)
左は15マイクロメートル、右は24マイクロメートルでの観測。複数の波長での観測から表面の温度などの重要な情報が得られる。この画像には別の小惑星(左下の黄色丸)も写っていた。緑丸は背景の恒星。

「あかり」では、中間赤外線と呼ばれる波長域で観測が可能です。この波長域では、可視光領域で反射せずに吸収した太陽光が熱に変換され、その熱が放射として出てきます。その熱放射の強度は、主に絶対反射率と大きさで決まります。つまり、可視光領域と中間赤外線領域で観測される光は異なる物理プロセスによるものですが、それを決めているパラメーターは同じです。したがって、可視光領域と中間赤外線領域の観測があれば、連立方程式を解くがごとく、未知数である絶対反射率と大きさを同時に求めることができます。

我々のチームでは、「あかり」搭載の近・中間赤外線カメラ(IRC)と「すばる」望遠鏡の冷却中間赤外線分光撮像装置(COMICS)を用いて1999JU3を観測し、中間赤外線のデータを得ることに成功しました(図4)。そして、すでに得られている可視光線の観測値と今回の中間赤外線データを組み合わせることによって、1999JU3の大きさと絶対反射率の情報を得ることができました。1999JU3の大きさは、直径が約900mであり、イトカワより一回り大きいことが分かりました。また、絶対反射率は0.06前後であり、これはC型小惑星の典型的な絶対反射率に近い値になりました。

そして、もう一つの重要な情報である表層状態についても、「あかり」と「すばる」望遠鏡のコラボレーションによって、初めて得られました。詳細はここでは書きませんが、1999JU3の表層は、月のように砂で覆われているのではなく、イトカワのように岩石で覆われているであろうことが分かりました。

以上のように「あかり」を用いた観測によって、1999JU3の大きさ、絶対反射率、表層状態の情報を得ることができ、探査計画に対して非常に有益な情報をもたらしたのみならず、直径1km以下のC型小惑星の様相もうかがい知ることができました。

(はせがわ・すなお)