JAXAとの付き合いは小学生のころから

2024年4月に宇宙研に着任されました。宇宙研は前からよく知っている場所ですよね。

はい、大学院時代を宇宙研で過ごしました。当時はロビーに展示室があり、最初の1、2年は週末に説明員のアルバイトもしていました。特にゴールデンウィークや夏休みは、子どもから大人まで多くの人が訪れます。私より宇宙に詳しい人もいて質問に答えられず困ったこともありましたが、子どもたちと遊びながら宇宙の話をしたり、とても楽しかったです。

私自身、小学生のころからJAXA(当時NASDA)の教育プログラムやイベントに参加して、さまざまな話を聞かせてもらいました。その体験がなければ、私は今ここにいなかったと思います。人に説明するのは得意ではありませんが、多くの人に宇宙に関心を持ってもらうことに、自分なりに貢献できたらと思って、展示室に立っていました。

JAXAのどの教育プログラムに参加していたのですか?

最初に参加したのは、宇宙教育センターのコズミックカレッジ、ファンダメンタルコースです。宇宙飛行士になりたいという友達が、私が宇宙に興味を持っていることを知って、誘ってくれました。初めて会う人ばかりで、しかも年上の子も多く、緊張していた記憶があります。それでも、誘ってくれた友達以上に夢中になって、一人でアドバンストコースにも参加しました。

自分でつくった望遠鏡を宇宙に打ち上げて研究したい

子どものころから宇宙が好きだったのですね。

大阪の繁華街で育ちました。ビルに囲まれていて、星はまったく見えません。両親が旅行やアウトドア好きで、金曜日に仕事が終わってから車で5〜6時間かけて山へ出かけることがよくありました。移動中ずっと付いてくる月を飽きずに眺めたり、山に着いてから満天の星を見上げたりするのが楽しかったことを覚えています。普段見えないからこそ、月や星、そして宇宙に興味をもったのかもしれません。

興味をもったことは、ものすごく考える子どもでした。どうして月はずっと車に付いてくるんだろうというのも、ずっと考えていた記憶があります。

将来どんな仕事をしたいと思っていましたか?

小学3年生のころには、天文学者になりたいと思っていました。

その後、すばる望遠鏡をつくった人が書いた児童書を読みました。図鑑は好きでしたが、本はあまり読んでいませんでした。そのときも、学校の図書室で毎週1冊借りる決まりがあったからで、なんとなく選んだだけです。ところが、読み始めると一気に引き込まれました。天文学者には観測をする人だけでなく、観測機器をつくる人もいることを知り、しかも、ものづくりがとても楽しそうだったんです。

天文学者として宇宙のことを知りたい。ものづくりもやりたい。その両方ができたらいいなと思い、「自分でつくった望遠鏡を宇宙に打ち上げて研究したい」と考えるようになりました。

その思いのまま、大学に進んだのですか?

そうではありませんでした。高校生になるころには、多くの人が、好きだからというだけでなく、現実的な進路を考えるようになりますよね。私も天文学者とは別の道を考え始め、宇宙のことは趣味にしようと思うようになりました。

実際には天文学の道に進まれています。それはなぜですか?

高校2年生の終わりに、宇宙教育センターの種子島エアロスペーススクールに参加しました。それも、趣味として宇宙を楽しみたかったからでした。ところが4泊5日の日程が終わるころには、「私はやっぱり、こういうことをやりたいんだ!」と確信したのです。そこから進路を大きく変え、天文学を学べる大学を探して進学しました。

ボートは物理学

進学した東北大学では、念願の天文学を存分に学ぶことができましたか?

そのつもりだったのですが......。ボート部のマネージャーになり、学業そっちのけで没頭してしまって。宇宙への熱は冷めかけていました。

なぜボート部のマネージャーに?

運動が苦手なので、運動部に入ることは考えていませんでした。しかも、ボートについての知識はまったくなく、どっち向きに進むかすら知りませんでした。ところが、誘われて練習を見に行ってみると、そのコミュニティがとても魅力的に感じられたのです。また、マネージャーはサポートだけでなく、マネジメントも担当すると聞き、やりがいがあると思いました。

部に入ってから知ったのですが、ボートは物理学なんです。水を効率良く押すには、オールのどこを支点にするとよいのか。どのタイミングでオールに力をかけるとよいのか。どれも、まさに物理学の問題です。物理は大好きだったので、知れば知るほど、ボートに惹かれていきました。

ハードな部活で、「やるしかないんだ精神」をたたき込まれましたね。今の仕事でも、いざというときに、それが役立つかもしれません。

JAXAで研究ができる!

天文学への思いがどうなったのか気になりますが......

物理など、コース選択に関連する科目だけは成績が良かったこともあり、どうにか天文学コースに進むことができました。専門的な授業を受けるうちに、やっぱり面白いと、宇宙への熱も戻ってきました。4年生次からは、地上の望遠鏡の装置開発をしている研究室に入りました。そこで、光学の知識と技術を身に付けました。

そのまま東北大学の大学院に進むことも考えましたが、「自分でつくった望遠鏡を宇宙に打ち上げて研究したい」という気持ちを思い出し、研究室の先生に相談しました。すると、JAXA宇宙研で宇宙望遠鏡プロジェクトが進められていること、そして総合研究大学院大学に進めば宇宙研で大学院生として研究ができることを教えてもらいました。子どものころからお世話になっていたJAXAで研究できる! 迷う理由はありません。もちろん、ボート部は4年生夏の引退まで全力で打ち込みました。

大学院ではどのようなことに取り組んだのですか?

大学院5年間のうち2年間は、関西学院大学の観測ロケット実験CIBER-2に参加していました。関西に住み、月に1回ほど相模原に帰ってくるという生活でした。やりたいことの主軸はずっと変わりませんが、その時々で、最適な場所やプロジェクトを選びたいなと思っているのです。

私は、太陽系や系外惑星の成り立ちに興味があります。CIBER-2では、太陽光が太陽系内のダストによって反射・散乱された光を観測します。そのデータからダストの性質を調べ、ダストの起源や太陽系の成り立ちを探ることができるのです。自分が開発に深く携わったカメラや望遠鏡が、将来このような科学の解明に役立つのだと思うと、ハー ドスケジュールの中で実施する装置試験も乗り切ることができました。

博士号取得後、自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターで特任研究員をされていました。

地上の望遠鏡や観測装置の開発を行っていました。ものづくりにも興味をもつきっかけとなった、すばる望遠鏡の観測機器の運用にも携わり、ハワイのマウナケアの山頂にも何度も行きました。充実していましたが、「自分でつくった望遠鏡を宇宙に打ち上げて研究したい」という気持ちが強く、宇宙研に移ったのです。

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JASMINEの宇宙望遠鏡を開発中

今は主に、どのようなことに取り組まれているのですか?

赤外線位置天文観測衛星JASMINEの望遠鏡の開発をしています。JASMINEの使命は、星の位置と明るさの変化を超高精度に測定することです。観測中、太陽や地球からの光の当たり方が変わると、望遠鏡の温度も変わります。熱膨張率が非常に小さい特殊な金属で望遠鏡を製作しますが、熱変形を完全に抑えることはできません。鏡の位置や形がわずかでも変わると、星の像がほんの少しひずんでしまいます。そのため、観測された星の位置や明るさの変化が、本当に天体に由来するものなのか、望遠鏡の熱変形によるものなのかを見極める必要があります。

私は、望遠鏡がどれだけ熱変形したときに星の像がどのように変化するかを、光学シミュレーションで解析し、その結果をもとに望遠鏡の設計や設計の検証を行っています。まさに、自分の専門である光学の知識と技術を発揮できる場です。

JASMINEは、星々の位置天文観測に加えて、地球型系外惑星の探査も計画されています。

惑星が恒星の前を横切ると、恒星がわずかに暗くなります。その明るさの変化を超高精度で捉えることで、これまでは難しかった、太陽より暗い恒星の周りの地球型惑星の発見を目指します。系外惑星は、私が関心を持っているテーマの一つです。自分がつくった望遠鏡で得たデータが、その発見に役立つのだとすれば、とてもうれしいです。JASMINEは、2030年代前半の打上げを目指しています。

JASMINEの先、どういうことをやりたいとお考えですか?

JASMINEで培った知識や経験を生かして、グレードアップさせて、光学の立場から将来の宇宙望遠鏡ミッションに関わりたいと思っています。

望遠鏡はガリレオ・ガリレオの時代から400年以上の歴史があります。にもかかわらず今なお、光学や熱や構造などさまざまな分野のスペシャリストが集まって工夫を凝らし、より高い精度を実現しようとしています。その過程が、とても面白いのです。

多様性のあるコミュニティに身を置きたい

ご自身の強みはどのような点だと思われますか?

一つのことを集中して続けられるところでしょうか。朝から晩まで実験室にこもって同じ作業を続けたり、数値計算のプログラムコードをずっと書き続けることも、苦になりません。10年先、20年先の目標に向けて、日々目の前のことを地道に積み重ねていくこともできます。

それは、仕事を離れた日常にもいえます。コロナ禍にはジグソーパズルに夢中になり、世界最小サイズのピースに挑戦したこともあります。夕食後に始めて、気が付けば朝になっていたこともありました。

仕事をする上で、重視していることは何ですか?

職場やプロジェクトでは、何よりも「人」が大事だと考えています。年齢、性別、職種、専門、所属、経歴......いろいろな人がいる、多様性のあるコミュニティに身を置きたいと思っています。

私は、とにかくマイペースなんです。興味をもったことや気になったことは、自分が納得いくまで考えたり、やり切りたい。だから、どうしてもゆっくりになります。一方で、何でもパッとできる人もいますよね。両方のタイプの人がいると、補い合うことができます。そうした意味でも、多様性のある環境が大切だと思うのです。

休日はどのように過ごしていますか?

月に1回くらい、レイトショーでポップコーンとビールを手に映画を見るのが、最高の息抜きです。旅行も好きです。観光地巡りではなく、スーパーに行ったり、電車に乗ったり、街中の風景を見たり、その町に住んでいる人になりきるのが、私の旅行スタイルです。

予定がないと、だらだらしてしまったり、仕事のことを考えてしまったり、実際に仕事を始めてしまったりします。だから、週末はあえて予定をめいっぱい入れます。そうすると、強制的に切り替えられるんです。そして月曜日からまた頑張れます。

【 ISASニュース 2025年8月号(No.533) 掲載 】(一部加筆)