自分が理解できれば、相手も理解できる

科学推進部では、どのような仕事をされているのですか。

宇宙研の予算管理等を行っています。文部科学省等へ予算要求をして、その予算を様々な事業に配分するのが主な仕事です。

予算要求では、各省庁に事業内容、その意義を理解していただく必要があります。各省庁の方々も、必ずしも専門知識を持っているわけではありません。専門的な内容を、いかに分かりやすく翻訳して伝えるか、というのが難しいところです。ただし私も素人です。自分が理解できないことは、相手も理解できない。逆に言うと、自分が理解できれば、相手も理解できる。そう考え、資料を調べ、研究者や技術者に聞いて、説明資料を作成、説明しています。

より難しいのは、予算配分の方ですね。本当は、すべての事業に十分な予算を配分したいのですよ。でも、我慢してほしいと伝えなければいけないこともあります。そうしたとき私は、「素直に」を心掛けています。良いか悪いか素直な心で受け取り、その気持ちに蓋をすることなく、自分の意志をはっきり伝えることが重要だと考えています。素直に生きる。それが私の信念です。

人とのコミュニケーションが重要になる仕事ですね。

でも実は、人と話をするのが苦手なのです。緊張して、相手の目をしっかり見られないのです。仕事なのだからやらなければ、と頑張っています。

宇宙研の素晴らしいところを外へ伝える

科学推進部に来て4年半になりますね。

これまでいくつもの部門や部署を経験してきましたが、宇宙研は初めてでした。JAXAの他の部門や部署から見ると、宇宙研は特殊な組織という印象があります。例えば、教育職の「先生」と呼ばれる人たちがいるのは、宇宙研だけです。最初は戸惑いましたね。

宇宙研に来て分かったのですが、皆さん、自分達で何かをやってみようというモチベーションを持っていて、自ら手を動かしています。それは、他ではあまり見られません。自分で手を動かし考えないと、発想が豊かにならないし、応用が利かなくなってしまいます。宇宙研の素晴らしいところを、宇宙研の中から外へ伝える活動を始めています。

科学推進部のオフィスの改装を中心になってやったと聞きました。

新たに管制室を作るために推進部の執務室に他部署を集約したのですが、どうしても人が入りきらず、フリーアドレス化することにしました。それにはオフィスの大改装が必要ですが、お金をかけられないので業者には発注できない。そこで、若い人たちに声を掛けたら、やってみたいと何人も言ってくれたのです。若い人中心にデザインを考え、建具の取り外しや壁・床の補修・塗り替え、床下のネットワークの配線も自分たちで行い、数カ月かけて完成させました。みんな楽しそうに作業していましたし、何より完成したオフィスでみんなが心地良さそうに仕事している様子を見て、大変でしたけどやってよかったと思いました。

2010年にNASAからSFA(Space Flight Awareness)を受賞されています。

SFAは、国際宇宙ステーションプログラムに貢献した人を表彰するもので、有人部門在籍中に頂きました。当時は、「きぼう」日本実験棟が3回に分けて打ち上げられ、日本人宇宙飛行士のフライトも続き、宇宙ステーション補給機「こうのとり」の打上げもありました。多くの人がミッションに対応する中、私は予算等の業務を担当していました。縁の下の力持ちとしての仕事を評価していただけたのかなと。うれしかったですね。

科学推進部 参事 立川 誉治

宇宙に憧れがあったわけではないが

子供のころは、どういうことに興味がありましたか。

家は山の中にあり、いつも外で遊んでいて、休みの日は農作業の手伝いをしていました。父は技術者でもあり、旋盤等の機械を使ってゼロコンマ何ミリの世界でものづくりをしていました。そんな父を見て、父のような技術者になりたいな、と思っていました。

どのような経緯でNASDAに?

高校で、進路に悩んでいる時に、進路指導の先生から呼び出されたのです。「俺に人生を預けてみろ」と言われて、勧められるまま経理の専門学校に進みました。高校は商業高校で、簿記の成績は良くなかったのになぜそこを勧めたのか、今でも謎です。

就職については何も考えていませんでした。ある日、校長に呼ばれて行くと、「NASDAの試験を受けられるから、受けてみなさい」と言われたのです。実は、NASDAを知りませんでした。でも、受けるのならば絶対受かってやる!と思って臨み、今に至ります。

今後、異動したい部署はありますか。

私の場合、宇宙に憧れがあったわけではなく、仕事としてやってきました。だから、これからも何かを成し遂げたいという大きな志はありません。ただし、どの部署に行っても、その仕事を全力でやっていきます。

【 ISASニュース 2023年12月号(No.513) 掲載 】