「映画をつくらせない」という思いで

「はやぶさ2」プロジェクトには立ち上げから携わっているそうですね。

「はやぶさ」が満身創痍で地球に向かっていたころ、私は月周回衛星「かぐや」プロジェクトの真っ最中でした。正直に言うと、たくさんの人に応援されている「はやぶさ」をうらやましく思い、勝手にライバル視していました。映画がいくつもつくられ、宇宙に興味を持ってもらうきっかけにもなりましたが、エンジニアとしてはドラマはいりません。「はやぶさ2」は映画がつくられないくらい完璧にやろう、と思っていました。その思いは達成できたかな。

主任を務めたカプセル回収では、どのようなことを感じましたか。

探査機については、初号機でさまざまなトラブルがあったので、どこをどう改良すれば同じ失敗を繰り返さないかヒントがありました。一方、カプセル回収については、トラブルがなかったので改良点が分かりません。帰還場所はオーストラリアのウーメラ砂漠で同じですが、初号機は6月、今回は12月と季節が逆。新型コロナウイルスの影響もある。数年前から万全の準備をしてきましたが、やはり不安でした。だから、カプセルを発見できたときはうれしかったですね。しかし、次はヒートシールドを探して回収しなければならないので、気を抜けませんでした。回収されたカプセルが現地本部に到着したときは、2階のコントロールルームから階段を駆け下りて見に行きましたが、う〜ん、何を感じたかな。次はガスの採取をしなければ、と考えていたように思います。今にして思えば、感動すればよかったですね。

ほっとしたのは、いつですか。

カプセルを積んだ飛行機が日本に向かって離陸したときです。想定していた最短の時間で回収し、日本に送ることができました。しかし、ほっとしたのは一瞬です。撤収作業がありましたから。実は、いまでもまだ完全にはほっとしていません。「はやぶさ2」の成果は、初号機の情報をもらっていたからこそ達成できたものです。情報をもらうことで、次のミッションはそこをスタートラインにして先のことができます。「はやぶさ2」の情報をまとめ、検証し、次に渡すまでが、私たちの責任です。

「はやぶさ2」の機体は健全で、燃料も残っていることから、カプセル分離後に新しいミッションができないかと検討されてきました。そして「はやぶさ2」は今、小惑星1998 KY 26に向かう拡張ミッションに挑んでいます。高速自転する微小な小惑星を初めて接近観測する計画ですが、減価償却が終わった探査機だからできるミッションでしょう。到着予定は2031年7月です。打上げからカプセル帰還までが6年。それより長い旅路になるので、慎重に運用しなければいけないと気を引き締めています。

マネージメントに王道なし

現在参加しているほかのプロジェクトは?

2018年に打ち上げられ2025年に到着予定の水星探査計画BepiColomboでは、ミッション機器インターフェースに加えて、資金や契約管理などを扱うマネージメントも担当しています。技術開発の場合、ゴールが決まったら、やる手順は決まっていて1本道のことが多いように思います。一方、マネージメントの場合、さまざまな組織、人、分野が関わるチーム全体を見なければならず、問題が生じることもしばしばです。まだ、こうすればいいという王道を見つけられていません。心掛けているのは、チーム全体がうまく回るように、みんなが気持ちよくできるように、ということ。そのためには、楽しいだけでは駄目です。でも、楽しくないとできません。バランスを見ながらやっています。マネージメントに王道なんてないのかもしれません。

「はやぶさ2」プロジェクト サブマネージャー 中澤 暁

子どものときは、どのようなことに興味がありましたか。

土器や考古学が好きでした。あそこは古墳だったらしいと聞くと、多少遠くても自転車で出掛けて行き、草をかき分け土器のかけらを探したものです。考古学は趣味にしておこうと大学は理学部に進みましたが、文学部の考古学の講義を聞きに行っていました。

趣味は?

8年ほど前に再開した剣道です。中学生のときに部活でやっていたころは、相手の隙を見つけ、いかに素早く打ち込むか、速さを競っていました。今は違います。「理合(りあい)」といって、自分がこう動くと相手がこう動く、だからここを攻める、という動きの法則があります。それを読み合うのが面白いのです。剣道場の大先生は、80 歳を超えていて力や速さはありません。しかし、私の動きは全て読まれ、パンパン打たれてしまう。それも痛快です。

【 ISASニュース 2021年6月号(No.483) 掲載】