国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、2023年7月27日(木)午前3時55分に、GRAMS液体アルゴン放射線検出器の気球搭載試験を目的として、2023年度気球実験のB23-06号機を、連携協力拠点である大樹航空宇宙実験場より放球しました。この気球は満膨張体積30,000 m3(直径約42m)の大型気球で、毎分およそ230mの速度で上昇しました。

気球は、放球2時間04分後に大樹航空宇宙実験場東方約60 kmの太平洋上において高度約29 kmで水平浮遊状態に入りました。その後午前6時43分に指令電波により切り離された気球及び搭載機器部は、大樹航空宇宙実験場南東約35kmの海上に緩降下し、午前7時14分までに回収船によって回収されました。なお、GRAMS液体アルゴン放射線検出器に関しては、今回取得したデータを詳しく解析し、今後の研究を進めていきます。

放球時の地上気象状況は、天候:晴れ、風速毎秒1 m、気温:摂氏22度でした。

※実験概要
GRAMS 実験は、大型の液体アルゴン放射線検出器を気球などの飛翔体に搭載し、ブラックホールや中性子星からのメガ電子ボルト(MeV)ガンマ線放射の観測および低エネルギー反粒子の検出による暗黒物質探索を同時に開拓することを目指す日米国際共同実験計画です。液体アルゴン・タイムプロジェクションチェンバー(liquid argon time projection chamber, LArTPC)は、素粒子物理学実験の分野で実用化が始まっている先進的な実験装置であり、大有効面積を実現できる放射線検出器です。これを気球などに搭載し、遠方天体からの微弱なガンマ線や暗黒物質由来の非常に稀少な低エネルギー反重陽子・反ヘリウム核を検出することがGRAMSの基本コンセプトになります。LArTPC を飛翔体に搭載し上空で稼働させたことは世界でも例が無く、その実現がGRAMS 計画の現時点での最大の技術課題となっている。本実験では、GRAMS計画の第一段階として、気球搭載用に設計された小型のLArTPC を世界に先駆けて気球に搭載し、上空で安定的に動作させる運用方法を技術的に確立します。

※GRAMS: Gamma-Ray and AntiMatter Survey (MeV ガンマ線観測・ダークマター探索実験)

JAXA格納庫内でガス充てんされる大気球B23-06号機

JAXA格納庫内でガス充てんされる大気球B23-06号機 (クレジット:JAXA)

放球装置にセットされた搭載機器

放球装置にセットされた搭載機器 (クレジット:JAXA)

放球された大気球 B23-06号機

放球された大気球 B23-06号機 (クレジット:JAXA)