科学探査と別に、最近では国際宇宙探査という言葉を耳にすることも多くなりました。科学探査は、宇宙理学・工学という科学に資する探査活動を指します。一方の国際宇宙探査は、国際的な協力の下に例えば民間企業などを巻き込んだ視野の広い探査を行う枠組みです。

2018年2月、アメリカが主導的に人類を再び月に送り込もうという「アルテミス計画」の提案がありました。ここで、月の上空にあるのが「月近傍ゲートウェイ」です。月周回軌道を飛ぶ衛星で、地球からここに人が来て、ここから月に降りて活動を行うことを想定しています。実現のためには、それを支える技術が当然必要です。例えば、月面とゲートウェイの間を行ったり来たりする着陸機の推進薬を得る技術が必要となります。 

JAXA 宇宙科学研究所 教授・研究主幹 稲富 裕光

資源探査という観点では、「超小型探査体」「小型サンプルリターン」「通信・測位のための衛星コンステレーション」というツールを手にすると、多くの探査機を使って月の全球で水の分布や資源の分布を調査したりすることができるようになります。これらのツールを開発し運用するには、軌道間輸送技術、月面の移動技術と探査技術、次々とサンプルを解析する技術などが必要となります。例えば、レーダーを搭載した超小型探査体を多数用いて、それぞれを無線で通信させながら超多点で地中の様子を把握すれば、月の全球資源探査が可能になるでしょう。衛星コンステレーションによって実現された月-月ゲートウェイの高速ネットワークを使うと、大容量の通信が可能です。

JAXA 宇宙科学研究所 教授・研究主幹 稲富 裕光

月ゲートウェイという宇宙インフラは、今後の科学・探査の構想にも役立つでしょう。ただし、月ゲートウェイの利用については、アカデミアや民間企業の技術をいかに成熟させて発展させていくか、ということも併せて考える必要があります。私は月全球の資源探査技術が確立したところで、民間企業による月資源探査のビジネス化が始まることを期待しています。月資源、特に、水を推進薬として利用できたならば、民間企業による大量物資輸送が実現し、その次には、推進薬製造プラントとともに人が活動する居住環境の整備が始まるでしょう。民間企業の参入により、挑戦的かつ機動的な探査ミッションがより多く実行できるようになり、並行して人類の活動圏も拡大するという明るい未来を私は描いています。