惑星間空間での宇宙塵研究は、半世紀余りの歴史を持つ宇宙科学の老舗です。すでに人類は、地球近傍から冥王星の彼方まで、太陽系内の各領域で宇宙塵を実測しました。また、太陽系外から到達する星間塵や、探査天体ごとのユニークなダスト成分(例えば、彗星コマダスト、月面の静電浮遊微粒子、火星衛星のダストトーラス、土星衛星エンケラドスの海氷プリューム微粒子など)の探索にも役立っています。

太陽系以外の惑星系(系外惑星系)の研究でも、「系外黄道光」の光学特性や、惑星との平均運動共鳴(※1) にある周星ダストバンド構造への理解が重要性を増しています。そこで、太陽系において赤外線波長程度の大きさを持つ大型の宇宙塵の分布が、太陽からの距離や各惑星の重力・軌道などとどのような関係を持つかを理解できれば、系外惑星系一般のダスト円盤やその中に埋もれた惑星群に関するベンチマーク情報となり得ます。

実測の戦略を大別すると、黄道光や彗星ダストトレイルの太陽光散乱光、大気中の流星発光などを捉える光学観測機器と、宇宙機に直接衝突する個々の宇宙塵の物理量や物質情報をひもとくダスト計測器、さらに地上へサンプルリターンするためのダスト捕集器の3系統に整理できます。

しかし、従来の手法に限界もあります。光学観測は、視線方向に重なる宇宙塵による太陽光散乱光の積分値です。衝突電離型のダスト計測器は、開口面積が小さいためにμmオーダー未満の小さな宇宙塵の計測が主体です。両者の欠点を克服するには、光学観測対象と同等な大型の宇宙塵を統計的に有意なほど多数検出できる大面積のダスト計測器が必要ですが、通常の宇宙機のペイロード面積とは大きな乖離があります。

2000年代初頭。深宇宙に100〜1000m2オーダーの面積を持つセイル膜を長期間広げてこそ可能になるサイエンスを分野横断的に検討していたソーラーセイル・ワーキンググループ内の研究会で、筆者の頭にこのジレンマを解消するアイデアがひらめきました。セイル膜材の一部を薄膜軽量のダスト計測器に置き換えることで、宇宙塵研究にとっての"魔法のじゅうたん"にするのです。ALADDIN(大面積惑星間塵検出アレイ)構想の誕生でした。

それ以降、大気球、観測ロケット、M-Vピギーバック衛星と続くソーラーセイルの段階的開発に寄り添いながら、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)センサを用いたALADDINシステムの開発を続けました。2006年に「SSSAT」、2009年に「かがやき」という地球周回小型衛星への搭載に挑んだ後、2010年にIKAROSによって約16ヶ月間、地球ー金星軌道間で深宇宙運用が実証できました。その間、約2800個の宇宙塵のデータを取得し、そのうち400個以上は直径10μmを超える大型のものでした。現在もデータ解析とモデル研究は続いていますが、主な科学成果として、①日心距離1〜0.7AU(1AUは地球と太陽の平均距離で約1.5億km)間の大型宇宙塵の分布を解明、②地球の公転軌道上の周太陽ダストバンドの計測から標準宇宙塵分布モデルの限界を指摘、③金星の公転軌道上の周太陽ダストバンドの発見、が挙げられます。

PVDF式ダスト計測器は海外でも実績があり、日本の独創ではありません。しかし面積0.54m2、視野角2πの反太陽指向で宇宙塵の衝突を常時待ち受けるALADDINは、断トツで宇宙探査史上最大の有効開口部を持ったダスト計測器となりました。もう一つ重要な点は、ALADDINは日本人が独自に設計・開発・製作・試験・運用・較正・解析を完遂した、日本初の純国産ダスト計測器だったことです。IKAROS実測データを使って博士号を取得した次世代の研究者を育成する機会にも恵まれました。それは1995年以降、宇宙研や東京大学で固体微粒子を射出できる独自の超高速衝突実験設備を整備してきた、宇宙塵研究者たちの地道な努力のたまものです。20世紀末まではドイツがダスト計測器の総本山であり、工学実験衛星「ひてん」と火星探査機「のぞみ」に搭載された装置もドイツ製だったのですから。

IKAROSの実績と教訓から、本来の目標である、ソーラー電力セイルの膜面に4m2以上のALADDINシステムを搭載し、内惑星領域から小惑星帯、外惑星領域の木星トロヤ群小惑星まで大型宇宙塵の分布構造を連続的に測り、赤外線光学望遠鏡とも同時観測を行う準備は、ほぼ整いつつあります。さらにALADDINの技術と経験は、スペースデブリ環境の常時モニタを可能にする地球周回衛星用の汎用軽量ダスト検出システムにもスピンオフできると考えています。

図1 セイル膜面に搭載されたALADDINセンサ一組(左)と探査機外縁に搭載されたALADDIN回路ボックス(右)

図1 セイル膜面に搭載されたALADDINセンサ一組(左)と探査機外縁に搭載されたALADDIN回路ボックス(右)

※ 1 平均運動共鳴:惑星と宇宙塵それぞれの公転軌道の周期が整数比となるとき、毎回同じ配置で最接近するため、両者の軌道は長い間安定な状態に入る場合があり、平均運動共鳴と呼ばれる。

(やの・はじめ)